15人が本棚に入れています
本棚に追加
2 虹の…?
何やってんだろうな…俺は。
そう思っている朋希の前には、豚を焼いて甘辛く味付けをしたものをご飯に乗せた丼と、とりあえず、野菜を適当にぶち込んで作った具沢山の味噌汁が並んでいる。
そして、向かいには同じ料理を穴が開くんじゃないかと思うほどマジマジと眺める、拾った犬…いや、拾ったヤツが一人…。
いや、ここまできたら、考えるのはあとあと。
朋希は箸を取って、食べ始める。
「…食わないのか?」
「……いただきます…」
おずおずと豚丼を口に運び、次の瞬間、男の顔がぱっと輝いた。
「うま……」
その様子に、自然と朋希の顔が綻ぶ。
「…人が作ってくれたものってこんなに美味しいんだな……」
「……?」
何か聞こえた気がしたがよく聞こえず、そこからはしばらく、二人で食べる事に集中する。
そして、腹を満たした後、マグカップに入っているのは緑茶だ。コーヒーでも、紅茶でもない。これは、朋希のこだわりなので、問答無用だ。
「で…?」
「…?」
「あそこで何してたんだよ。何日も」
「ああ…どんな虹になろうかなって…」
「……は?虹?」
「そう。せっかくなるなら、どんな虹がいいだろうってそう、思ってた」
思わず、ヤバいのを拾ったかもしれない…と、思ったが、本当にヤバい奴ではないと、朋希の勘が告げている。
朋希の家族は、そういう勘が妙に鋭く、それのおかげで、本当に厄介な事には巻き込まれたことはないのだ。
と、なると…話したくない事情があるってとこか…。
「家族は心配しているんじゃないのか?」
「あ〜。今の俺には家族もいないし、帰る家もないんだ」
そいつはそう言って、少し寂しげに笑う。
「……よし。わかった。とりあえず、今日は泊めてやる」
「……へ?」
「俺は、朋希。葦原朋希。お前は?」
「ん〜と。名前も今はないんだよな…あ。強いて言うなら『虹の素』みたいな…?」
「『虹の素』…?」
思わず、某食品メーカーの調味料を思い浮かべてしまった朋希である。
事情を話したくないなら乗ってやるか…。
「虹の素…ねぇ。なら、虹かな」
そう呼んだ瞬間、肩を揺らし、何かを含んだ目を向けられた朋希は、顎を引いた。
「え?嫌なら…」
「いや。コウ。コウがいい」
「…?そっか」
この時の朋希は変わったことを言う奴を拾ったな…。
そう思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!