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その晩のことだった。
朋希が洗面台で歯磨きを終えた時。
「なぁ、朋希」
「うわっ!!」
朋希は急に後ろから声を掛けられて飛び上がった。
振り返ると、そこにはコウが立っている。
え…?だって……
朋希は、目の前の鏡を見るが、コウの姿はない。
再び、振り返ると確かに、コウが立っているのに。
コウは苦笑した。
「普通は、俺の事見えないんだって。だから、声かけられた時はびっくりしたけど」
「じゃあ……」
「俺は人間じゃない…いや、人間だったもん…かな」
朋希はベットに。コウは客用の布団で。並んで横になっていた。
すでに電気は消していたが、お互いに寝ていないことは、わかっていた。
カーテンから差し込んでくる月の光は意外と明るい。
「………なぁ」
「…ん?」
「虹になりたいって言ってたよな」
「…うん」
「……何で?」
「…俺、生きている時、いい事なーんにもなかったわけ。だから、最後に一つくらい、何かしたいなって。神様が言うんだよ。虹見ると、いい事ありそうだって思うだろ?たくさんの人達に希望を与える事が出来るんだって。そしたら、次の場所に行けるらしい」
そういうと、コウは、ぱんっと両手を合わせる。
「『我願う。万人の希望とならんことを』って『詞』を、神様が決めた日時に、『神様の標」に立って言うと、虹になれるらしい」
「……コウの、その…」
「ああ。死んじゃった理由?」
「……事故か、病気みたいなもんか」
「…まぁ、そんなとこ?」
「そっか…」
「最後に、きれーな虹になれたらいいよな。でっかくて色がくっきりしたやつ?」
「………もしも、虹になれなかったら、どうなんの?」
「…消滅。きれーさっぱり、消えてなくなるんだってさ」
「………」
朋希は、その日、なかなか眠ることが出来なかった……。
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