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運の道化
あと一回のチャンスを無駄にするかしないかはその人次第。
宙に投げてチャッチしたコインは裏か表か。
こんなの運だろって言う人もいるけど、その運をものにできるかが大事。
今日のお客さんも駄々っ子だから、あと一回チャンスをあげた。
ゲームにはやっぱり勝てるかもっていう期待が必要。
でも残念。
今日のお客さんも運がなかったみたい。
「放せ、放せッ!」
どんなに叫ぼうと無駄。
お客さんの運はこれまでだったんだから。
次のお客さんがやってきたけど、またも同じ展開。
見飽きた光景も、希望をチラつかせて落とすこの瞬間がたまらない。
また一人引きずられていく。
向こうの部屋では何が行われているのか。
運がない人はとことん運がないんだから、どうなってるかは聞こえてくる叫びでわかるよね。
「何だここ」
「ようこそお客さん。アナタの運を試させてもらうよ」
楽しい楽しいゲームには種も仕掛けもしっかりあって、運だって決めつけてるお客さんには最初から不幸しかない。
運だって待ってるだけじゃやってこないのに、人は本当に運がないね。
そんな人だからこそ、私は楽しいんだけど。
次のお客さんが来たけれど、コイン勝負は飽きてきたから、道化のようなアナタ達にピッタリな新たなゲームを用意したよ。
それでも運がなくて負けちゃうなんて、可哀想で見てられなくて笑ってしまう。
なんて思っていたのに、次のお客さんは少し運があるみたい。
どんどんゲームの種を暴いていく。
でも残念。
最後の最後で運はなかった。
だって最後は、正真正銘の運での勝負だったからね。
それで負けたなら、アナタには本当に運がなかったってこと。
「あと一回チャンスをくれよ!」
聞き飽きた言葉だけど、その表情は飽きない。
最初から存在しない運に必死になって、現実を突きつけられると喚き出す。
引きずられていった先でも聞こえてくる悲鳴はしばらくして静かになる。
次のお客さんはアナタだね。
どんなゲームをしようか。
運があるかはわからないけれど。
《完》
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