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「え〜、それじゃあ、宇宙人の正体って、私?」
「いや、正確には、袴田さんのスマホ……の着信音かな」
電話を切った袴田さんに、僕は順を追って説明した。
「やだ」
袴田さんは、細い指先で口元を覆って、頬を赤く染めた。
しかし、袴田さんがホラー好きだったとは。
「来るの、宇宙人じゃなくて、貞子だった」
僕が言うと、
「じゃあ、貞子が来る前に帰ろう」
そう言って、袴田さんはクスクスと笑った。
「デート出来なくなって、ごめんね」
帰り道、僕は袴田さんに謝った。
「いいよ。私が作ったサンドイッチ、美味しいって言ってくれたから」
袴田さんは気にした風もなく、さらりと答えた。そして、足を止めると、
「いつか届くといいね。灰原君の想い。宇宙人さん達に」
そう言って、僕の目を見て優しく微笑んでくれた。
僕は……僕は、宇宙人には会えなかったけど、袴田さんの言葉で救われた。
今日一日の行動が、決して無駄ではなくて、いつかこの想いが届く日が来るんじゃないか、そう思えた。
僕が少し涙ぐんでいると、袴田さんは、ふふふ、と小さく笑ってから一度前を向いた。そして、
「後、私の想いも少しは届くといいんですけどね〜。私の宇宙人さんに」
そう言うと、袴田さんは、いたずらっ子のような笑みを僕に向けて、その白くて長い腕をしっかりと、僕の腕に絡ませた。
おしまい
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