1.法要

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1.法要

 黒っぽい服装に気を遣い、今年の夏は暑いなか実家に帰省することになった。数年ごとに巡ってくる、故人の法要に父と欠かさず出席するためだ。  スマホのメッセージアプリ、ラインを通して、父からその知らせを受け取ったときは、そうか、今年はその年なのかと若干、陰鬱な気分になった。  俺の母親は、まだ俺が物心もつかない三歳のころに亡くなった。父からは、自宅での突発的な心臓発作だと聞いている。俺自身がまだ三歳の時分なので、当時のことは全く覚えていない。  母と過ごした記憶も断片的なもので、実家の仏間に飾られた遺影を見るたびに、頭の片隅が幾らか疼き、そういえばこんな雰囲気の母だったと朧げに残る記憶と像を結ぶ。柔和な笑みを浮かべる母を見つめながらも戸惑い、仏壇の(りん)を鳴らす。線香の匂いに少しだけ気が滅入るのも、いつものことだ。 「(たつみ)、そろそろ出かけるぞ」  父から声をかけられ、重い腰を上げた。  母の命日は八月五日で、当初は四日の日曜日に法事をしようと考えていたそうだ。けれど、それぞれの都合が合わず、一週間ずらして、八月十一日に行われることになった。カレンダーの暦上、ちょうど連休のなか日となるため都合が良いそうだ。
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