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揺れる電車の中。着慣れてきた黒のスーツに身を包み、手鏡で身だしなみを整えると軽く息を吐く。
今日こそはと思いを胸に秘めスマホを握りしめる。
彼に声をかけるシュミレーションは頭の中で何度もしてきた。
よし、と心の中で唱えた。
彼が居る駅に近づくたびに早鐘を打つ胸をぐっと押さえる。
「次は〇〇駅」
電車を降りると乗り換えをする為に一度ホームの階段を降りて別のホームに上がる。そこにはいつも通勤に使う電車が停まっていて、いつもと同じ場所に座っている彼も見えた。
やっぱりいるよね。
もしかしたら居ないかもしれない。そんなことを心の何処かで考え逃げたい自分がいる。
私は頭を振ってその考えを追い払った。
胸の高鳴りを抑えるようにスマホを握りしめるともう一度深呼吸をした。
口の中でもごもごと何を話すかシュミレーションする。
よし。これならきっといける。
そう信じて電車の入口に近づいたところで気づいてしまう。
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