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「10年・・・もしそれほどの年月をかけても戻れなかったら、私らは一生この世界で生きて死んでいかねばならないかもしれないねえ」
生駒さんが呟いた言葉に、私は胸がずきんと痛みました。
10年のうち、もう半年は経過しちゃっているんですよ。
20分の1の時間を費やしても、禁呪による召喚の逆バージョンを構築できていない事実が目の前にある。
「高齢の私は諦めもつくというもの。10年後にもし亜麻音さんが魔王陛下の元に嫁ぎたいと望むのでしたら、私は反対いたしません。その時に私がまだ存命かどうかもわかりませんし、今よりずっと老いて耄碌しているかもしれませんでしょう」
野瀬さんが耄碌する姿は想像できませんし、命があるかどうかなんて言わないでほしい。
これまで必死でこの世界で生きてきたことが報われずに終わるかもしれないという未来図は、考えたくない。
「僕は諦めたくない。せめて清里は母親がいる世界に帰してやりたいと思うし、僕だって妻に会いたい。10年経ったって、僕の気持ちが変わることなんかありえないんだ」
珍しく戸田さんが悲痛な声で訴えたのを聞いて、こちらの胸の痛みがさらに大きく深くなる。
そりゃ私だって英にいだって両親を置いてこっちに来ちゃったから、本気で帰りたいよ。
友だちだってたくさんいて、きっと行方不明の私のことを心配しているだろうし。
でも、その反面私や英にいなら、まだこっちの世界に馴染んでいけそうな気がしないでもない。
英にいなんか向こうでは引きこもりのニート野郎だったのに、今や生き生きと動き回ってるんだもの。
そんな私たちに比べたら、生駒さん野瀬さん戸田さんの思いはもっともっと重くて深刻で諦念も混じってしまうものなんだろう。
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