1539人が本棚に入れています
本棚に追加
だってそうでございましょう。
戦争など、どこで起こっているというのです。
むしろ先の大戦以降、人間国と魔王国は不可侵条約を結び、さらには和平、交流へと明るい未来に向けて歩み出そうというときに。
戦争を声高らかに主張するものなど言語道断。
「平和な世を貴ぶことができぬものを、私は非難いたします。互いを傷つけることで己の正義を謳うことは愚かなことです。相互理解をし互いに尊重し合う世界を目指すならばともかく、己が与する同胞のみが勝てばよいなどという利己的な考えに同意するはずもございません」
戦争がどれほど悲惨な傷跡を残すのか、私たち日本人は永遠に語り継いでいかねばなりません。
そのような立場である私たちが、自ら戦争の火種を作れるわけもございませんわ。
「それに私、剣術を学んだことがございませんの。あなたがどうしても主を欲しているのだとしたら、剣を扱える方を選びなさい」
そうなのですよ、そもそも私を選ぶことからして間違っているのです。
生まれてこのかた剣を一度も握ったこともなく、剣道もしたことのない高齢の私を勇者に選ぶなど、どう考えても間違っておりますわよね。
それでも勇者の剣は譲りませんでしたの。
『我が導く。修行せよ』
「必要ございません。あなたの言う戦場はこの世界にはありませんのよ」
『だ、だが、そなたは紛れもなく勇者なのだ!我を抜き、我を所有し、我と共にあれ!』
「私は私のいるべき場所を心得ておりますし、共にあるべき方々も知っています。それに何です?名乗りもせずずっと私に話しかけておりましたでしょ?あなたには相手の立場や気持ちを思いやる心はございませんの?頭の中に声が響いてくるなんて、私、てっきり心が弱ってまいってしまっているのか、はたまた自分が呆けてきたのかとずっと心配しておりましたのよ。自ら名乗りもせず強引に人を呼びつける所業、私はまったく好きではありません。反省しなさい」
反省したところで、私に剣を扱う気などさらさらございませんけれど。
扱えませんのよ、本当に。
謝罪の言葉の一つでも発するかと睨んでおりましたら、剣が急にべそべそと泣き始めました。
最初のコメントを投稿しよう!