1551人が本棚に入れています
本棚に追加
あら、トリュステン王子、どうなさいましたの?
ええ、そういう会話でしたのよ、私と剣が交わしていたのは。
勇者の剣がこちらのお国にとって非常に貴重で大切なものだとしても、それは私には関係ございません。
どれほど縋られようと、私がそれを手にして勇者だと宣言することで、皆様に貢献できることなんてございます?
平和な世が保たれること、それが一番でございましょう。
それよりも、側に控えているトリュステン王子たちにあの剣の声が聞こえずに本当によろしゅうございました。
たいそううるそうございましたのよ。
何度も申し上げますけれど、勇者の剣が泣こうが喚こうが、私には戦いに身を投じる気もなければ、私自身の存在が戦の火種になる気もございません。
「話は終わりましたわ、王子。ここまで私を連れてきていただき、ありがとうございます」
剣に背を向けてトリュステン王子にお礼を申し上げると、王子は困惑されておりましたわね。
「あ、あの、ノセ夫人。勇者の剣と対話をしていたのではありませんか」
「ええ。対話と申しましても、あちらの言い分は到底受け入れられるものではございませんでしたから、このままで結構です。もし仮に私が何らかの手違いで勇者と誤認されたのだとしても、今の時代に勇者は必要ありませんでしょう。でしたら、いつか本当に勇者の存在が必要となったときにその素質のある者が使えばよいのです。そのようなことが起きないことを心から祈っております。大勢の人死にが出る戦争は起こるべきではございませんもの」
「確かに戦は起こらない方がよい。ですが、勇者という栄誉を放棄するなど」
「聡明なあなたがあの剣と同じことをおっしゃるなんて思ってもみませんでしたわ。栄誉とは何ですの。剣に選ばれ剣の傀儡となって命を奪う者の称号をいただくことを、私は栄誉とは考えておりません。人々の安寧を守るのは、あなた方王族の皆様方、貴族の皆様方、騎士兵士の皆様方でございましょう」
私、あの場でこのように申し上げましたわよね?
ええ、今もその気持ちに変わりはございません。
最初のコメントを投稿しよう!