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この世界の皆様方が、勇者聖女というのを特別視しておいでになることは知っております。
ですから禁呪などというバカげたものを使って私たちを呼び出したのでしょうから。
でも、人間国と魔王国との間に不可侵条約が結ばれ、アマネさんたちが尽力して和平推進の動きがある今、勇者聖女の必要性などどこにもございません。
お若い方であれば英雄気分で勇者役を引き受けお国の旗頭になったかもしれませんけれど、こんなお婆ちゃんにその役が務まるとお思いですの?
「お手間をとらせました。もうこちらにご用はありませんわ。戻ってお仕事をいたしましょう」
そう宣言して剣に背を向けましたら、べそべそと泣きごとを垂れ流していた剣が譲歩してきましたのよ。
『で、では、どうすれば我をそなたの手元に置いてくれるというのだ』
何故私の元にいたがっておりのか、本当に理解に苦しみます。
ですが、長年宝物庫の奥の秘密の部屋に安置され孤独なまま勇者の来訪を待ち続けたことを思えば、いくら必要がないと申し上げたとて私にも慈悲の気持ちが一滴ほど湧いてもおかしくはございませんでしょう。
「あなた、どうしてもここから出たいとおっしゃるの」
『我は勇者の剣である。勇者と共にあることが我の喜び』
そこで私、考えましたのよ。
「どうしても私と共にありたいと言うのでしたら、剣のままでは連れ出すことはできませんわよ。私は周りの方々に勇者として指名されたことを流布されたくないのです」
『で、ではどうすれば我を手にとってくれるというのだ』
半泣きで聞かれたので、そこは一択しかございませんでしたわね。
「剣であるからいけないのです。あなた、姿は変えられて?」
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