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カラカラ回る音がする
私が生まれ育ったのは、東北のとある小さな町だった。
まるで昭和の頃から、時が止まってしまったような町。電車はちゃんと通ってるし駅に行けば最新の列車が止まるのに、駅の西側だけは昔の町並みがそのまま残っているようなところだったのだ。
古びた商店街が駅前からずーっと続いていて、ハンコ屋さんとか、郵便局とか、チェーン店ではなさそうなコンビニもどきとか昔ながらの洋食店とか本屋とか。
駅に行く時は必ずその通りを通って、電車に乗って三つ隣の町まで遊びに行く。商店街は子供が遊ぶにはちょっと時代遅れ感が強く(ゲームセンターやお洒落な雑貨屋の一つもないし、本屋は漫画がちょっとしか置いてなかったため)、遊びたかったら電車に乗る必要があったのだ。あるいは東口の方には少し大きなデパートもあったが、駅からちょっと離れているのと、やっぱり子供には敷居が高かったというのが大きい。
しかし、そんな商店街に子供達が溢れるタイミングが年に数回だけあったのだ。
それが、冬と夏に行われるお祭りの時期だった。
なんでお祭りが年二回あるのかは知らない。ひょっとしたら町おこしの一環だったのかもしれなかった。私としては、普段退屈な商店街に屋台が沢山出て、ゲームもできるし美味しいものもたくさん食べられるのでとても楽しかった記憶がある。
あれはそう、夏のお祭りの時期だったと思う。
小学校一年生の時だっただろうか。私はそこで、福引をすることになったのだった。お祭りの時期は、他のお店で買い物をした分だけ特別なくじが貰えて、雑貨屋の前で福引ができるシステムになっていたのである。
昔ながらの八角形の、カラカラと回るアレ。ハンドルを回すと赤とか黄色とか白とかの玉が出てきて、それに応じた景品がもらえる仕組みだ。
「今日は三回回せるね、みっちゃん」
「うん!」
私は雑貨屋の前に貼られた商品のポスターを見上げた。
一等は海外旅行。二頭はなんかの家電。三等は大きなぬいぐるみ。私は三等のクマのぬいぐるみがほしかった。四等以下はよく覚えていないが、ほとんど気に留めないような雑貨とかハズレの品だったということだろう。
毎年両親と共にお祭りに来ていた私だったが、福引をするのは初めてだった。小さな手を伸ばし、一生懸命ガラガラを回す。からから、からから、からから。三回回って、玉が三つ出た。
狙っていた三等は、黄色の玉だったはずだ。しかし飛び出してきたのは全部白い玉だった。
「はい、七等ねー」
福引のおばさんがポケットティッシュを三つお母さんに渡す。私はがっかりして、お母さんに言ったのだ。
「やだあ!くまさん、くまさんがほしい!あと一回、あと一回やらせて!」
そんなこと言われても、両親は困り果てたはずだ。これがお金を出せば回せるくじ引きだったならともかく、よそで買い物した分だけくじが貰える福引ではどうにもならない。もう手元にくじの紙はない。
途方に暮れる両親に、駄々をこねる私。そんな私の肩を、ぽん、と叩いてきた人物がいたのだ。
「おいお前。これ、やるよ。俺はやらねーから」
「え」
それは目がくりくりした短髪の男の子だった。白いTシャツに、水色の短パン。なんとなく、ジブリの映画に出てきた男の子に似ている気がする。
その子が私に、水色の福引のくじをくれたのだ。
「あ、ありがとう……?」
私がお礼を言って顔を上げると、もうその子はいなくなっていたのだった。
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