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どうやら彼が現れてくれるのは、お祭り一回につき一度だけらしい。
私以外の子供達もユータ君を何度か目撃していたが、例えば一回目のくじびきの時に“あと一回”を発動すると、次のお店でくじびきをした時には“あと一回”を唱えても来てくれないのである。夏と冬、それぞれ一回ずつだけの会えるチャンス。だから、次に私がユータくんに会えるのは冬のお祭りの時だった。
「あと一回、あと一回やらせて!」
いつもの雑貨店の福引のところで、私はそう叫んだ。するとまた、ぽん、と肩を叩く手が。
「はい。これ、やるよ」
「ユータくん!」
私が名前を呼ぶと、彼はとても驚いた顔をした。私は彼が差し出した水色の券を貰う前に、矢継ぎ早に質問したのだ。
「ねえ、君はおばけなの?どうして券をくれるの?君がくれた券でみっちゃんが当たりひいたら、ユータくんよろこんでくれる?みっちゃん、ユータくんとおともだちになりたい!」
我ながら積極的が過ぎるだろうと思う。きっと向こうもドン引きしたのだろう。やがてしばし沈黙した後、私に券を押し付けて言ったのだった。
「俺と友達になんかならねえほうがいい。俺は、悪いやつだからな。……何十年もこんなところに居座ってんだ、いいやつなわけがあるかよ」
券を受け取って気づけば、彼はまたいなくなってしまっていた。私は一緒にいたおばあちゃんを見上げる。おばあちゃんは、困ったように笑っていた。
「おばあちゃんも、見た?」
「ええ、見たわよ」
「ユータくん、悪いやつ?みっちゃん、そんなことないと思う」
「ええ、そうね。おばあちゃんもそう思うわ」
彼女は少し寂しそうな眼で、ユータくんが立っていた場所を見つめたのだった。
「きっと、自分を悪い奴だと思ってしまうような出来事が、あの子の身には起きたんでしょうね……」
その言葉で、私はますますユータくんのことが知りたくなった。そして、同じくユータくんと出会ったことがある人、話したことがある友達に訊いて回ったのである。
彼は、少なくとも戦後すぐの頃からこの商店街にいるらしいということ。
二十代の若者であっても、“あと一回だけやらせて”と誰かに懇願すると出現したケースがあるということ。
何十年も小学校四年生位の姿のままであるということ。
友達になりたいと言うと、自分は悪いやつだから、と言って逃げてしまうということ。
それから。聞いた限りではまだ、彼からもらった“あと一回”のチャンスで、当たりを引いた人はほぼいなさそうだということ。
――あの子のくじで当たりを引いたら、あの子は成仏できるんじゃないだろうか。
私はいつしかそう思うようになっていた。だから両親やおばあちゃんにお祭りに連れて行ってもらう時、かならず“あと一回”のおねだりをするようになったのである。
ユータくんに出会って、そのくじで当たりを引くために。
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