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町の再開発で、あの商店街がなくなってしまうこと。同時にお祭りがなくなってしまうと知ったのは、私達一家が都会に引っ越してから数年が過ぎてからのことだった。
この時、私は大学生。お祭りには、もう数年行けていなかった。例の感染症騒ぎもあって避けていたというのもある(実際、お祭り自体が中止になってしまった年もあったようだ)。
「おばあちゃん、あのさ」
年を取ったお祖母ちゃんには辛いかもしれない。でも私はおばあちゃんにその日、お願いをしたのだった。
「あと一回。……これで本当に最後だから一緒にあの町のお祭り、行かない?」
彼に会えるチャンスは、きっとこれで最後だ。彼と友達と呼べるほどの関係ではなかったけれど、それでも何かできることをしたいと思ったのである。
おばあちゃんも私の意図が分かっていたからだろう。大きくなった私のおねだりを嫌がることもせず、一緒に出掛けることを許してくれたのだった。
夏の蒸し暑い日だった。幸い天気に恵まれ、今年で最後となった商店街の夏祭りはなかなかにぎわっていた。規模はやや縮小されたようだが、福引もまだやってくれていた。私は近くのお店でやきとりやお煎餅を買うと(今はもう自分でアルバイトをしているので、自分のお金で買うことができる)、貰った福引の券を携えて雑貨店の前に立ったのである。
小さい子たちに交じってくじ引きをすることを、恥ずかしいとは思わなかった。今回は福引が複数の種類があり、商品に合わせてすきなものを選べるようになっている。どれを引くべきか、と思いつつ私は様子を見たのだった。
――確率からいって、当たりやすいのは……ああ、でも。あの子が喜びそうなものは……。
悩んだ末、私はぬいぐるみが当たる福引の列に並んだのだった。二等が、大きなクマのぬいぐるみ。子供が喜びそうなもの。
思えば私が一番最初に狙った福引もクマのぬいぐるみが商品だった。
「……おばあちゃん」
くじの券三枚分は、やっぱり外れた。ポケットティッシュをおばさんから受け取ってバッグにしまいながら、私はわざと一緒にいたおばあちゃんにおねだりをする。
「あと一回だけくじ、引けないかな」
もう二十歳を越えた私にも、あの子は会いに来てくれるだろうか。そう思った次の瞬間、私の腕を誰かが掴んだ。今はもう、あの子よりずっと背が伸びてしまった私。肩を叩くことができなかったのだとすぐに気づいた。
「これ、やるよ。やりたいんだろ?」
ユータくんが少し困った顔で券を差し出してきた。何回も何回も彼に話しかけてきた私のことを、ユータくんは覚えているだろうか。それとも大人になってしまったからもうわからないだろうか。
「久しぶり、ユータくん。私だよ。みっちゃんこと、美嘉乃。覚えてる?」
「子供のころからやたらしつこかったよな、お前」
「嬉しい、覚えててくれたんだ」
私は彼の腕を掴むと、そのままずい、とガラガラの前に突き出した。
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