人生という名の山を私は登る

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「ちょっと貸して」  孝明が携帯画面を勢いよくスクロールする。 「これ、一番最後の陣馬山からの縦走(じゅうそう)のやつ」 「縦走?」 「陣馬山の山頂から高尾山山頂まで下山しないで何個か山を渡り歩いたんだよ」 「すげぇキツかったよな。『もう2度と来るか』ってな」  そう言って裕正が笑う。  スワイプする度に、景色に混ざって楽しそうに笑っている3人の写真がたくさん。 「これいつだっけ…3年の時だから、4年前くらい?」  一瞬、身体が強張(こわば)った。  テーブルの下の手が汗ばむ。  青春真っ只中のこの写真とは対照的に、私が山の恐ろしさを身をもって知った頃だ。 「初美?」 「…え」 「大丈夫?」 「あ、うん…別に。ちょっとトイレ行って来ようかな」 「…一緒に行こうか?」 「大丈夫、別に酔ってないから」  折り畳んでいた杖を伸ばす。  コツン、ズッ、コツン、ズッ、コツン、ズッ…
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