人生という名の山を私は登る

7/21
前へ
/21ページ
次へ
 花火か…。  もう随分見てないなぁ。  最後に見たのは事故に遭うよりももっと前…高校3年の夏だった。  受験の息抜きだと言って、夏期講習の帰り道に女子3人で地元の花火大会に行った。  そこでバッタリ北斗に会って一緒に花火を見る事になった。  隣のクラスの北斗は友達の友達で、それ程親しい訳ではなかったけれど、話せば楽しかったし…話せると嬉しかった。  バランスの悪い5人組は狭い道で2人と3人に分かれた。  一番前を歩く私の友達と北斗の友達。  その後ろにもう1人の友達と北斗と私。  人の波に押されて次第に2人と2人と1人になった。  まぁいいや、このまま歩いていればそのうち追いつくだろう。  テキストの入ったリュックを前に抱え、人の波に身を委ねていた。 「いたいた‼︎」  不意に掴まれた右手と北斗の笑顔。  その横から移動して来て左手を握る友達の笑顔。  両手を繋がれて歩くのなんていつぶりだろう。 「ちょっと‼︎子供みたいで恥ずかしい」 「ダメだね、離したらまた迷子になるに決まってる」 「そんな事ないって…」 「綺麗なものを1人で見るのって、何か寂しいじゃん……な」 「そうだそうだー‼︎離さないぞー」  両手を握る手に力が込められる。  私、顔に出てたかな?  今日渡された模試の結果がイマイチで、正直ちょっとへこんでた。  真夏の汗ばんだ手、温かいなぁ…って思った。  あの日見た花火は、一生のうちで一番綺麗な花火だったと思う。  両手を繋がれて歩く…この先の人生で二度とできない事。  大切な大切な、思い出したくなかった思い出だ…。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加