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白衣の女と現実の殴打(υ)
「………何…ここ………。」
目の前には白い空間が広がっていた。
「なんでこんなところに…うぁッ…痛いッ…!」
過去を振り返ろうとすると、酷く頭が痛む。
頭を抱え、うずくまっていると、頭痛に追い打ちをかけるように高音が鳴り響き、放送のようなものが始まる。
『お目覚めかな?実験体υよ。』
「誰…?実験体って…何……?うっ…。」
ダウナー系の女性の声だ。
『おっと失礼、頭が痛むようだ。医療班、医務室へ。』
誰かに命令しているようだ、発言の後即座に反対するかのような声が幾つか聞こえる。
頭痛はどんどん増していき、座っているのも不可能になってくる。
『成功であってくれよ、υ。』
その声を最後に意識が途絶えた。
―――
目覚めるとそこは、ベッド、白い壁に天井、まるで病院のようだった。
「おぉ!起きたか!」
「身体の具合はどうだ?何処か痛みや違和感を感じる点はないか?」
緋色の長髪に、研究者のような白衣、それに聞いたことがある声だ。
「さっきの…放送の…。」
「ふむ、どうやら言語機能等に問題は無さそうだ。」
「何か聞きたいことはないか?例えば…白衣を着ているこの美人は誰なのかー…とか、ここは何処なんだーって、なんでも答えてあげるよ。」
私はゆっくりと口を開いた。
「私は…私は誰なんですか。」
白衣の女はキョトンとした顔をする。
「どうしました…?なんでも答えてくれるんでしょう。」
呆然としていたのを取り繕うようにコホンと軽く咳払いをした白衣の女は、こう答えた。
「結論から言うと君は魂だけを別の時間軸から抜き出した存在で、今の身体は魂の情報をもとに再現された君のクローンだ。」
「クローン…。」
私が驚愕の表情をしていたのだろう、白衣の女の顔からは笑みが溢れている。
唐突に自身がクローンであり私本人ではないと伝えられた私の中は、黒い感情が渦巻いていた。
これを何処にぶつけるべきなのかは分からない。
「君はこの実験初の成功例、この後いくつか検査をするけどいい?」
俯きながら私は答える。
「別に…なんでもいいですよ。」
「ふぅん………じゃあ後で案内を手配するから、検査室へ来てね。」
白い部屋の扉がガララと開く。
チラッと映る扉の先には、目にも当てられないような光景が広がっている。
一面どろりとした赤い液体と、べちゃりとした赤い液体塗れの異物が飛散していた。
理解しかけた瞬間、ぴしゃりと扉は閉じられた。
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