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体の芯から冷える冬が過ぎ、春の訪れを感じる三月の夜。
長かった受験生活もようやく終わり、各々が新生活に向けての準備を始めるなか。
「……ピアス開けたい」
宙はひっそりと抱えていた欲をぽつり、ひとりごとのように呟いてみた。
「なに。急に」
背もたれにしていたベッドから衣擦れの音がして、大地が身を起こしたのが分かる。
宙は緊張を飲み込むように喉を鳴らして、ちらりと、首だけで彼を振り返った。
「急にじゃないよ。ちょっと前から思ってた」
「……、なんで。お前、そういう痛そうなやつ、苦手だろ」
さすが幼馴染み。痛いところを突いてくる。
眉間に皺を寄せて訝しむ大地から逃げるように、宙は手元のタブレットへと視線を伏せた。
「い、痛くないって聞いたから」
「誰に」
「美那ちゃんとか、和くんとか」
「……あぁ、あいつらも開けたんだっけ」
「軟骨に開けたあきくんも、痛くなかったって言ってたし」
「あいつら……」
余計なことを……とばかりに深いため息が、大地の嫌がる顔を簡単に想像させる。
形の良い眉を吊り上げ、ただでさえ鋭い目をさらに鋭くして。多分、口もへの字に曲がっていることだろう。想像だけで、なかなかに迫力がある。
「そもそも、なんで開けたくなったんだよ」
「っ……それ、は……」
手持ち無沙汰にタブレットの画面を撫でていた手が、ぴたりと止まる。
ギシ、と響いたのはベッドが軋む音。胡座をかいていただろう大地が、近寄ってくる音だ。
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