ビーチ

　お盆休みに家族旅行をしようという話が煮え、妻と娘が積極的に候補地を選んでくれたのだが、俺はそれらをことごとく却下した。
　見せられるパンフや公式サイトの映像。一番の売りは海なので、重点的に海の写真が見られる仕様になっているが、ぱっと見には綺麗なその光景が、俺は不気味で仕方がない。
　リゾート地の海といえば白い砂浜。その砂が、見ているととある形に固まっていく。
　髑髏から始まり、首、胴体、手足と形成されていく人の骨。それが砂浜のあちこちにでき上って、ビーチは倒れた人骨だらけだ。
　妻にも娘にもそんなものは一切見えていないようだが、俺の目に映るすてきなビーチとやらは白骨死体の巣窟だよ。しかもそれが、少し時間が経つと崩れていき、完全に崩れるとまた固まるを繰り返すから、砂浜は人体模型張りに完成した品からほぼ砕けたものまで、実に多様な骨の山。そんな所でバカンス気分になんて浸れる筈もない。
　代案として、山でグランピングはどうかと持ちかけ、最初は海がいいと渋っていた二人も、上げる利点に今はかなり乗り気になってくれている。
　ただ、二人の意識を海から逸らすため、かなり張り込んだプランを提示したので、海へ行くより出費はかなりかさみそうだけれど。
　それでも白骨死体のビーチへ向かうくらいなら、小遣いから差額分を出すくらいの我慢はするよ。

ビーチ…完