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 愛を育む舞台の、建物は同じでも、さすがに部屋は先週と異なる。  しかし、室内の雰囲気は一緒だった。  タバコと埃とカビと……。独特の空気に、むせ返りそうだ。  顔をしかめた壱子は、しかしその匂いが引き金になったのか、朧げになりつつあった一週間前の情事を、その内容を、ありありと思い出してしまった。  ――あの夜は、ああやって、こうやって……。  赤面しながら突っ立っているところを、岳登に正面から抱き締められる。  ――ああ、この大きさ、たくましさ。あの日と同じだ……!  心臓が痛いほど鳴る。ぴったりと密着している岳登に、バクバクと大きなこの鼓動が聞こえたらどうしよう、恥ずかしいなと、壱子は心配になった。 「イチ……」  岳登は壱子の頬に手を置き、唇を重ねた。 「ん……」  角度を変えて何度も繰り返された口づけは、壱子の反応を伺っているかのような、弱々しいものだった。  もっと――。  焦れた壱子は岳登の口内へ、自ら舌を潜り込ませた。 「!」  岳登は一瞬驚いたように身じろぎしたが、すぐに相手の要望に応えた。  壱子の舌を捕まえて、自分の一回り大きなそれで包み、擦る。 「んっ……」  絡まる舌同士が、ぬちゃぬちゃと粘着質な音を立てる。  壱子は息苦しさに体を引こうとするが、岳登は許さなかった。壱子の後頭部に手を回し、がっちりと固定する。 「う、うぅ……っ」  弄ばれているのはまさにほんの舌先なのに、えも言われぬ感覚が全身を駆け巡る。ぐつぐつと煮えた血液が体中に回り、壱子は風呂上がりのようにぼーっとのぼせてしまった。 「はっ、はあっ……」 「イチ……。こっち……」  岳登に支えられながら、壱子は近くのベッドにそっと横たわった。 「わ……」  天井の明かりが直に目に入った。眩しいと思った瞬間、上に乗った岳登がそれを遮る。  自分を組み敷く彼は、悔しいけれどいい男だ。 「ここまで連れ込む手口とか、なんか手慣れてるなあ……」  黙っていると正気を保てないような気がして、壱子は非難めいたことを口にしてみた。 「何度も何度も、シミュレーションしたからな」  岳登はあっさり自供する。 「なにそれ……。ていうか、なんで今日もここに来たの……?」 「先週はバーッと、なんかすげえ早さで全部終わっちまって……。勿体ないだろ、そんなの。せっかく――」  壱子はムッと頬を膨らませた。 「せっかく、ヤレたのにって? ただ単にまたしたくて、私をここに連れてきたわけ?」  ――私は、岳登に、なにを言わせたいのだろう。  鬱陶しい女になりつつある。壱子は自身に苛ついた。 「――そうだよ。また、したかった。イチと。おかしいか? もっとイチのいやらしいところを、ゆっくりじっくり見たかった」  少々屈折している壱子とは対象的に、岳登は真っ正直だ。  いや、そもそも彼はこういう男性だったのかもしれない。  真面目で、素直な――。 「な……! 言いかた!」  あけすけな物言いに、壱子は思わずぽかぽかと岳登の胸を叩いた。 「なんだよ。怒るなら言い直すけどよ。色っぽいのとか、可愛いのとか……。なんか、めんどくせーな……。とにかく、イチのそういうところが、もう一度見たかったんだよ……」  ぶつぶつ言いながら、岳登は壱子のシャツのボタンを外していく。  抵抗することもできるが……。壱子は動かず、羞恥の時を耐えた。  やがて岳登は壱子のシャツをくつろげると、ブラジャーの肩紐を肩から外し、胸を覆うカップを下ろした。壱子の乳房が、ぷるっとあらわになる。 「あっ……」  さすがに恥ずかしくなって、壱子は胸を手で隠そうとするが、岳登はそれをそっと押さえ、乳首に食いついた。 「ちょっ……!」 「いただきます」 「ばかっ!」  男の舌に転がされて、壱子の胸の頂きは固く立ち上がった。  岳登は乳首を吸ったまま、壱子の肌を擦るように撫で、足を開かせた。スカートの中に手を入れ、下着の上から縦に指を運ぶ。 「やあ……っ、電気、消して……!」 「嫌だね。いつもと違うイチを見たいって言ったろーが」  岳登の唇は壱子の腹を吸い、太ももを吸い、遂に股間に到達した。スカートと下着を一気に引き下ろすと、その間に顔を突っ込む。 「やっ……! やだっ!」  しかし岳登は壱子の制止など意に介さず、躊躇なく彼女の陰部を舐め回した。長く伸ばした舌で縦の溝をつるりと撫で、膨らみ始めていたクリトリスに甘く噛みつく。 「やっ、やあ……っ!」  岳登は壱子の中心を舌で嬲り、膣口からこぼれ落ちた蜜を舐め取った。身を捩って抵抗する壱子を押さえつけ、じゅるじゅると卑猥な音を立てながら、秘裂を舌でなぞる。 「もう、やめて……っ! 汚い……からっ」 「別に汚くねーけど。まあ、スケベな味はするけどな」 「ばかっ……!」  ぐちゃぐちゃと愛液が濡れ溢れた膣に、男にしては細く長い指が入り込んでくる。同時に陰核を下品にしゃぶられ、壱子はあっけなく達してしまった。 「んっ、くっ……! やあ……っ!」 「うわ、いやらしい……」  ビクビクと収縮する性器の感触を楽しむように、岳登は中に収めた指で膣内をかき回した。 「動かし、ちゃ、だめ……っ!」 「じゃあ……」  岳登はネクタイを緩めると、素早くシャツを脱いだ。  そういえば、彼は服を着たままだった。  ――がっつき過ぎ。私もガクも……。  壱子は恥ずかしくなった。  しかし子供のように迫ってくるくせに、岳登は決して下手ではなく、むしろ女の扱いに慣れているのではないか。  意外なような気もするし、「やっぱりな」と納得もしてしまうし。壱子の心情は複雑だった。  その間、岳登はテキパキと裸になり、ベッドヘッドに置かれていたサービスの避妊具を、ペニスにかぶせた。 「よし、いくぞ」 「な、なんか萎えるな、その掛け声……」 「そうか? 悪いな。ちゃんとヤるの久しぶりで、勝手が分からん」 「ふ、ふーん……」  やや怯えつつ、横になっている壱子の上に、精力漲る岳登が君臨する。  今更ながら、壱子はわけが分からなくなった。  ケンカばっかりしていたあの男に、ここまでいいようにされて。最大の謎は、それが嫌ではないことだ。 「ゆ、ゆっくりね、ゆっくり……。こっちも久しぶりだから……」  いきり立ったペニスが膣口に当たると、壱子はか細く震える声で懇願した。 「おまえもかよ……。あ、でも一週間前、したじゃねーか?」 「あれはノーカン……」 「まあ、そうだな、うん。だから今日は、ちゃんと……」 「……ん」  敵の巧みな攻撃のせいで防御力の弱まった入り口に、太く硬い槍が当たる。ぐっと力強く攻め込まれて、壱子は苦しげな吐息を漏らした。  岳登の挿入は、確かに初手は緩やかだったのだが――。 「あ……。気持ちいい……、イチ……っ」 「んっ……」  最深部に到達し、岳登は小さく息を吐く。  ――問題はそこからだった。  壱子のウエストを掴んだかと思うと、前後する動きを、徐々に早めていく。 「ゆ、くりって言ったじゃん……!」  どんどん丸く太っていく亀頭で遠慮なく奥まで突かれて、壱子は悲鳴を上げた。 「しょうがねえだろ。おまえん中、きゅうきゅう締まって、すごくいいし……。おまえが悪い……っ」  岳登は開き直り、無情な態度を改めない。 「あんたって奴は……!」  なんで、こんな男に体を許してしまったのか。  ――嘘だ。本当は、そんなこと思ってないくせに。 「おまえは? 気持ち良くないのか……?」  わずかに動きを緩めて、岳登は壱子の頭を撫でた。額に口づけ、壱子の表情を探る。 「良く、なんて……っ」 「じゃあ、抜いたほうがいいか?」 「……っ」 「なあ、抜いたほうがいいか?」  岳登は分かっていて聞いているのだ。  性器同士で繋がって、壱子の体の最も深いところを穿ち――。  苦しいような痛いような、切ないような。だが、気持ちいい。  自分では決して至れない、快楽のてっぺん。そこへ、岳登は壱子を導いてくれる。 「バカ……っ! 意地悪! んっ、あっ、ああ……っ!」  二人で同じリズムで揺れながら、壱子は顔を背け、手で覆った。  きっと今、自分はとんでもなく情けない顔をしているだろう。  だが岳登は壱子の手を引き剥がすと、両手で彼女の顔を包み込むようにして、無理やり自分のほうを向かせた。 「こっち見ろよ」 「やっ……! ブサイク、だも……ん……っ!」 「ブサイクじゃねーよ。き、き…………キレイだよ……」  壱子は首を振る。 「う、嘘つき……。だ、って、こんな気持ち、良くて……っ。絶対に絶対に、変な顔になってる……っ!」 「……っ」  岳登は不意に動きを止めた。
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