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「どぎゃんしたと?」
顔を伏せていた私は服を掴んだ手にギュッと力を入れ顔を上げると「また、会ってくれる?」と口にする。
前までの私なら、恋人という関係を自分が孤独にならない為のものとしか思ってなかった。
なのに今は、目の前にいる彼が恋人でないことが不安で仕方がない。
ただ合コンで知り合って、メールでやり取りをしてるだけの関係。
そんな繋がり、いつ無くなってしまうかわからない。
そんな私の不安をわかっているかのように、斎藤くんの手が私の頭をポンポンと撫でる。
まるで大丈夫だと言っているように。
「そぎゃん目で見られると照るるね。鈴原さんのこと、俺はもっと知ろごたるけん、また来週会うてもらゆるかな?」
「ごたる? もらゆる?」
「あー、つまり俺は、鈴原さんの事ばもっと知りたいけん会おうってこと」
照れくさそうに視線を逸らして言うその姿にクスリと笑えば、斎藤くんはムッとした表情をしたあと苦笑いを浮かべていた。
最初に出会った合コンでは、皆を無視してた斎藤くんに少し腹を立てていたけど。
知れば知るほど惹かれていく。
話せば話すほどに離れることが辛くなる。
恋がこんな感情を私に与えるなんて知らなかった。
斎藤くんは私にいろんな知らなかったことを教えてくれる。
今のこの感情を、私は小さな声で口にする。
「好き」
聞こえないくらい小さな声で言ったはずなのに、目の前の斎藤くんは目をパチクリとさせていた。
もしかして聞こえたんじゃないかと内心焦っていると「聞き間違いかもしれんけんもう一度」なんて言ってきたので「何でもないから気にしないで」と返した。
聞き間違い。
今はそういうことにしておこう。
それでも「もう一回」なんて言ってくる斎藤くんだけど、今は秘密。
この言葉を次に口にするときは、今度こそしっかり伝えたいから。
こんな呟いた好きじゃなくて、心からの好きを伝えたい。
そんなことを思う私は本当に変わったと思う。
「もう一回!」
「しつこいと女の子に嫌われちゃうよー」
「そら困る」
しゅんとして諦めたその姿に口元が緩む。
流石に女の子から嫌われるのは嫌だよねと思っていたら「鈴原さんに嫌われよごたなか」と聞こえ、聞き間違いだろうかと聞き返すと「何でもなか」なんて私の真似をして教えてくれない。
こんな関係から始まる私の日々は、これからどうなるのか少し楽しみでもある。
もし斎藤くんも私の事を好きだったら、何て甘い期待をしてしまう。
その後、斎藤くんと別れて家へと帰る帰路を寂しく感じながら歩いていると、スマホが振動する。
送信者は斎藤くんで、内容は来週会うときの話。
今会ってたばかりなのに、何て笑みが溢れたら、さっきまでの寂しさは何処かへ消えてしまった。
まだ私に守るものはないけど、大切な存在ができてしまった。
これならいつ勇者になっても大丈夫そうだ。
斎藤くんへの返信文を考えながら、私は一人家へと帰る。
《完》
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