もう一回

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「えーと、名前忘れたけど無口くん。無理矢理参加させられたかは知らないけど、あの態度は失礼なんじゃない」  私の言葉にも無言。  流石にここまであからさまに無視されると少しイラッとしてしまうけど、別に私には関係ないことだからいいやと思っていたら、いきなり腕を掴まれて紙を握らされた。  訳がわからず無口くんを見れば知らん顔。  その間に他の人達が連絡先を交換し終えたため、ここでお開きとなった。 「で、誰かいい人はいた?」 「誘ってもらったのに悪いけど、私に合う人はいなかった」  途中まで友達と話して別れたあと、私は握ったままだった紙を開く。  書かれていたのはメールアドレス。  何で私に、何て疑問はあるが、家に帰った私はお風呂から上がったあと、紙に書かれたアドレスを登録する。  一応連絡しておこうと「先程はどうも。アドレス登録したので報告だけしとく」と送った。  返事なんてないと思っていたし、私からこれ以上連絡を取るつもりもなかったのにメールの通知音が鳴る。  送信者は無口くん。  その文面は少し変わったものだった。  簡単に言ってしまえば何処かの方言みたいだ。  読み進めてみると、先ず謝罪の言葉が書かれていた。  無口くんが話さなかったのは、方言を気にしてのことだったらしく、合コンも数合わせで誘われたらしい。  友達は無口くんが自分の方言を気にしているのを知っていたから、参加するだけでいいと言われていたとメール文に書かれていて、さっきは少しキツく言い過ぎたかなと反省する。  私は返信文に「こっちこそキツく言ってごめん。でも方言、私はいいと思う」と打ち込んだ。  それから毎日連絡を取り合うようになり、この事は合コンに誘ってくれた友達にも既に報告済み。  いつの間に連絡先を交換したのかと聞かれたから、私は正直に答える。  ただ、無口くんが気にしてる方言の事だけは友達にも話さずにいた。  人の気にしていることをあまり話すべきじゃないと思ったから。 「それで、斎藤くんとはどうなの?」 「斎藤くん? 斎藤くんって誰?」 「アンタ、相手の名前も知らないまま連絡取り合ってるわけ。合コンの時に斎藤くんの隣にいた人が代わりに紹介してくれたじゃん」  私のスマホのアドレス帳には無口くんで登録してたし、メールでのやり取りでも無口くんって呼んでたから全く気にしてなかった。  そういえば、斎藤くんの方は私の名前をメールでも書いてたな、なんて思い出していたらスマホが振動する。 「珍しいね。アンタがそんな風に笑うなんてさ」  斎藤くんからのメールを見ていた私にかけられた言葉。  一体今、私はどんな風に笑っていたんだろう。  いつの間にか連絡を取るのが当たり前になって、合コンの日から一度も会っていないのに誰よりも近くに感じるから不思議だ。  方言も今では見慣れて、わからない言葉があれば尋ねたりして知っていく毎日。  それを私は楽しいと感じている。
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