もう一回

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もう一回

 人は、守るものがあると強くなると聞いたことがある。  でも、守るものがない私は強くなれないんだろうか。  家族、友達、恋人。  私には全て守るべき価値がないもの。  ただこの家族に生まれただけで、友達も数人いた方がいいという判断から話したりしてるだけ。  そして恋人は、人生一人きりが嫌だから必要としたにすぎない。 「うわー、それ傷つくわー」 「ごめん」  友達はそう言いながらも、私がこういう人間であることを知っているから気にしてない様子。  私だっていくら生きていくために必要だと判断したからって、人は選んで話している。  勿論今話している相手は、こんな私の話を受け止めてくれるとわかっているからこそ話した。 「じゃあさ、守るのは自分自身とかわ?」 「それも思ったけど、自分自身もどうでもいいんだよね」  そう、私の人生はただ平凡に生きていくだけの人生。  そこに守りたいものや変わった日々なんてない。  ただこうして話して、ゆっくりと時間が過ぎていくだけのこと。  守りたいものがあると強くなるなんて話も、ふと思ったから話しただけ。  だってこの人生はゲームや漫画の世界じゃないんだから、強くなる必要だってない。  こんなことを考える私はきっと、この日常を退屈に思っているのかも。  だからゲームや漫画、小説の世界に入り込むのが好きなのかもしれない。  そこには現実ではない世界が広がっているから。 「本当にアンタは贅沢もんだよね。私みたいな友達がいて優しい彼氏までいるのにさ」 「贅沢、なのかな?」 「贅沢よ贅沢」  私は恵まれ過ぎている。  それを退屈に感じるのは、友達が言うように贅沢なんだろう。  退屈な日々を変えるような出来事を望んでも、早々そんなことはありはしない。  そう思ってた。  そんなある日。  たまには自分から彼氏に会いに行ってみようと、連絡をせずに驚かせることにした。  私も彼も大学生で独り暮らし。  いきなり行っても迷惑なことはないだろう。  彼のアパートに着きインターホンを鳴らす。  扉を開け出てきたのは知らない女性。  奥から彼も来て、私を見るなり驚いていた。 「来客中だったんだね。とくに用事があったわけじゃないから帰るよ」  普通の彼女なら修羅場になるんだろうけど、私にはどうでもいいこと。  だって何も思わないんだから。  ただ、彼の驚いた顔は少し面白かった。
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