戦争と傘

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 しかし、この物資調達のジレンマについては驚くほどあっさりと、そしてあっけなく解決された。インターネットの急速な普及だ。  インターネットという名の大海原には無尽蔵に物資が埋蔵されており、親のパソコンなどで密かにアクセス経路を確保してしまえば、継続的な供給が保証される。小学六年生のたった一年足らずで状況は大きく変わった。卒業の頃には、物資調達の事を口にする者は誰もいなかった……。  そうして、我々の戦争は終わった。   「戦争反対」と声高に叫ぶ事は誰にでもできるが、正義や平和を掲げる為に必要な事前情報は多岐に渡る。例えば、立場の違いという名の価値観のギャップ、歴史的背景という名の報復連鎖の履歴、軍需産業格差という名の力量差などだ。それらを蔑ろにして、ひたすらに正義を振りかざし平和を訴え続ける論調は、もはや暴論だろう。我々は世の中を知らなければいけない。他者の立場を理解する為に……。歴史を把握しなければいけない。同じ過ちを繰り返さない為に……。計算ができなければいけない。世界の大局を把握する為に……。そう、平和の為には教養、つまり勉強が必要なのだ……。  ……なんて、偉そうで大それた事までは考えなかったが、世界の真理は日常にこそ転がっている事を学んだ。簡単に答えが出せない事もあるし、ある日、あっさりと解決してしまう事もある。それに、犯した罪は消えない。そんなこんなの経験を繰り返しつつ清濁併せ呑む事で大人になってゆく。止まない雨はない。答えが見つからなくても、学ぶ事をやめず、各々が思う方向を見出し、歩み続けるしかない。雨上がりの虹を夢見て。 と、当時は色々考えたりしたが、そんな事より、とりあえず、隣の学校ののっぺり顔としゃくれ顔には謝らなきゃ……。
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