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戦争と傘
いつの時代も貴重な物資を巡って争いが起きる。現代では石油やレアメタル。古くはアヘンや胡椒。また、地域性という側面で見ると、アフリカでは今でも水を巡って紛争が起きる。水源が豊富な日本では考えられない話だ。時代や地域によって貴重な物資は異なり、それを巡って争うという事は人類の宿命なのかもしれない。
また、人間の欲望には際限がない。一度満たされても平穏は続かない。より強欲になり、より良い物をより多く求めるようになる。皮肉にもそのような世界の真理を理解したのは、勉強の意義などろくに分かっていない小学校時代であった。
むかしむかし、と言っても、時は九十年代中頃、まだインターネットがそれほど普及していなかった時代。ド田舎の小学校に通う五年生の男のおはなし……。
小学五年生は高学年だ。いろいろな事に目覚め始め、行動範囲が広がってゆく。それに伴って、悪さも一段とグレードアップしたりする。他校との抗争もその一つだ。思いもよらない出来事から、ある物資を巡る争いの火種を作ってしまった……。
通学路には度々男共の人だかりができる。喧嘩ではない。喧嘩は女もやるし、教室と体育館裏で行うものだ。道路脇に打ち捨てられた成人誌、言わば大人の絵本の周りに、まるで飴に群がる蟻のように男共が群衆をつくる。
当時はインターネットなど殆ど普及していなかった。年頃になると誰もが密かに興味を抱く大人の世界。そこへのアクセスが極度に限られた時代だったのだ。もちろん、映像情報はビデオ屋で入手できるし、コンビニには大人の絵本も売っていた。
しかし、顔見知りだらけの田舎でそのようなものを買い漁る行為は大変リスクが高い。どこで誰が見ているのか分からないからだ。そうなると最も身近な情報元は、道端に捨てられている成人誌であり、それを「物資」と称して大変珍重したのである。もちろん、自身も例外ではなかった。
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