戦争と傘

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 その翌日、密かにクラスの男子全員に一冊ずつ物資を供給する事になった。夢の実現である。しかし、思うように分配が進まない。  こんな時はジャンケンなどで選択権を争ったところで、結局は力ずくの奪い合いになる。物資が過剰だと選り好みが発生し、求める品質はより高度になってくる。漫画よりも実写、白黒よりもカラー、ページ数が少ないものより多いものといった具合に。中には、特定のジャンルを要求するマニアックな連中もいた。  一人一冊という定量的な平等も、定性的な観点からすれば必ずしも平等ではないのだ。結局は、各々が自己に対して都合の良い分配ルールを主張し合い、平行線の議論が続く。最終的には武力を持って解決を図るのだ。現代の社会情勢と何も変わらない。  クラスに流通する大量の物資を巡って、ただでさえ頻発していた喧嘩がより激しさを増していった。クラスの男全員が確実に豊かになったにも関わらず、争いは激しさを増すばかり。果たして自分の行いは正しかったのか、苦しみながら自問自答する日々を送っていた。  日に日に悪化するクラスの治安の悪さに恐怖と責任を感じる中、思いもよらない事件が起きた。あの日は七月も近いのに梅雨が明けず、すっきりとしない雨上がりの放課後だった。いつもの帰り道である。微かに感じる土の香りに、左手には雨露に輝く木々、右手には成長期真っ盛りの稲が新緑の絨毯のように広がっていた。
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