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妙に外が騒がしい。
これまでに経験したことのない異様な静けさが、外をざわつかせている。
この静けさはなんだ?
パソコンの作業をやめて外に出ようとすると、妻と十歳の娘が慌てた様子で書斎に入ってきた。
二人とも何かに怯えているような顔をしている。
「パパ、雨が降ってないの」
「え?」
「あなた、雨が降ってないの」
「まさか。え?じゃぁ、この静けさは?」
リビングに入り、開け放したままのガラス戸から庭に出ると本当に雨が降っていなかった。
つい最近張り替えたばかりの庭全体を覆う、硬質プラスチックの屋根に雨が当たっていない。異様な静けさの原因はこれだった。
透明のプラスチック屋根越しに空を見上げるとうっすらと青いところもある。
私は慌てて部屋に入るとテレビをつけた。
どのチャンネルも通常放送をやめてこの現象を放送している。
雨が止まったのは十五分ほど前かららしいので、どのチャンネルも専門家を呼べてなかったが、ある番組は電話で気象庁に聞いていた。
だが、彼らとてすぐにわかるわけもなく「状況を分析中です」としか言わなかった。
テレビをつけたまま庭に戻ると、妻と娘もついてきた。
「雨上がり」という言葉を娘は知らない。
私が生まれた四十年前までこの地域は乾期と雨季が半年おき交互に来ていたが、だんだんと雨季が長くなり、二十年前に完全に雨季だけになってしまった。
その原因をいまだに分かっていないのだから、突然雨が止まったことを今すぐに分かるわけがない。
またすぐに雨が降ってくるのか、このまま今度は乾期が何十年も続くのか。
陽がささなくなってわずか五年でこの地域のインフラは、大変革した。
下水道は以前の五倍の深さになり、人工太陽で野菜を作り、各家庭の照明も人工太陽が設置された。
本来は日光を浴びて体内で生成されるビタミンDを補うためにサプリメントを飲むようになった。
もし今度は乾期が続くようになると、水の確保が大問題になる。
太陽が無くてもなんとか生きてこられたが、水が無くては生きられない。
娘が私の手をつかんだその時、急に空が暗くなった。
一瞬ほっとしたが、冷たい空気が流れたと思ったその瞬間、硬質プラスチックの屋根が高音の音と共に割れて氷が落ちてきた。そして次々と激しい音を立てて屋根に穴が開き、氷が落ちてくる。
悲鳴を上げて妻と娘が家の中に避難したが、直径五センチから十センチくらいある。
外からガラスの割れる音や破裂音が聞こえてくる。道路に止めている車のフロントガラスや車体の破壊音だろうか。
通りを歩く人たちの悲鳴も聞こえる。
まさか、これがずっと続くのだろうか。これでは外に出られないからもし続くとなると大変なことになる。
野菜工場や牛や豚の飼育場、養鶏場は大丈夫だろうか。
テレビを見ると氷が降ってきた話題で騒然としている。外で中継していたカメラが壊れ、スタッフの頭に直撃して死者も出ているようだ。
これから一体どうなるんだろう。
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