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「今回のことだってさ、究極、ノンちゃんがツアー中にプロデューサーのところに行ってたところで別に何も悪いことないし、付き合っていたとしても別に不倫でも何でもないんだから法律違反をしてるわけでもないよな。本来、怪我してライブに出られないかもしれない以外のことは周りには関係ないことなんだ。でも、勝手にアイドルだからこれはだめ、あれはだめって周りが炎上している。周りが勝手に枠組みをつくってるんだ。何か違うよな」
「うん、すごくわかる。それに勝手な枠組みとか『べき』とかをつくっちゃうのって周りだけじゃないとも思うんだ」
「どういうこと?」
氷が少し溶けて薄くなったアイスコーヒーをストローでかき混ぜながらつぶやいた月島に聞き返す。
「そういう枠組みって自分自身でもつくっちゃうのかなって……たぶん私がそう。こうある『べき』って自分像を勝手に自分自身でつくっちゃってそれに囚われている。どこまでが本当の自分で、どこまでは猫を被った自分かも時々わからなくなる」
相変わらず月島はストローで氷を混ぜ、視線を逸らしている。
しばしの沈黙が二人の間に流れた。
「なーんて、ちょっと痛い子ね、私。厨二病だからやっぱ今の忘れて!」
少し話が重い方向に向かいそうになった雰囲気を感じて慌てて月島が否定する。こういった周りの空気を敏感に察するところが月島のいいところでもあり、悪いところでもあるのだろう。自分も似たような部分がないわけではないので気持ちがわかる。
「……それって俺も少しわかるよ」
その言葉に月島の視線がグラスからこちらに移る。
「俺の場合はカッコつけちゃうというか、他人から見てどう移るかなんて事を意識しすぎちゃって、そのくせ、いざ人前に出ると空回っちゃうことがほとんどで。仲のいい男子グループの中では内輪受けのノリでいけるけど、一歩そこから外に出ると急にかしこまる。本当に自意識過剰で自己嫌悪する事も結構ある」
こちらの話を月島は真剣に聞いている。こういったことは直樹ともあまり話したことがない。月島のさっきの言葉に共感するところがあったからかもしれない。割と自然に自己開示できた。
「私といる時もそうなの?」
「……この上ないぐらいカッコつけようとして毎回すべってる」
こちらの切り返しに月島はくすくすと笑う。その笑顔は小動物を思い出させた。
「私も一緒!」
そう返した月島は一層嬉しそうに笑う。
意外と二人は似ているのかも知らない。そして、それが心地よく感じる。
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