1:土のピラミッド

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1:土のピラミッド

 四色のサイリウムが暗闇の中で舞っている。赤・青・黄・緑、飛び交う光の軌跡が観客のボルテージをさらに上げた。アンコールの声がより一層大きくなる。一体となった観客の声は地響きのようにホール全体を揺らす。  一瞬のような、それでいて永遠のような幻想の中で、現実感を失う。ホール全体の雰囲気に深く沈んでいくような感覚になる。横目で見た彼女の姿にわずかな安堵を覚えた。  どれくらいの時間が経っただろうか?  ステージの中央が突如、スポットライトで照らされる。ホールにこの日一番の歓声が響きわたる。ステージの中央に設置されたカーテンのようなものに四人のシルエットが映し出された。  彼女はそれを祈るような表情で見ていた。            ◆  人生には三回のモテ期が来ると言われている。保育園の頃には女の子にモテていたという母親の話を信じれば、あと二回のモテ期が残っているはずだが、それがまさかこんなすぐに訪れるとは思っても見なかった。  目の前の月島恋は顔を赤らめてこちらを見ている。  同じクラスになったのは初めてで、正直ほとんど話したことはない。そもそも月島はクラスの中で目立った方ではないし、女子のグループの中にいても落ち着いていて、あまりはしゃいだりするようなタイプではなかった。  かくいう自分も普段から女子に絡みに行くようなタイプではない。内輪受けというか、男子の仲のいい連中同士の間ではハイテンションで過ごしているが、クラスや学年の中で見ると二軍もいいところだろう。  思い返してみると最近、月島とよく目が合うような気はしていた。こちらの様子を伺うような視線も思い過ごしか、てっきりグループの他の誰かに向けられたものだと思っていた。  校舎裏のゴミ捨て場というのが色気がないが、この際それには目を瞑ろう。今日に限って掃除当番のゴミ出しジャンケンに負けたのも天命だったのかもしれない。  ゴミ捨て場とは言え、人気のない校舎裏で声をかけられると言えば、これは「あれ」しかない。 「ごめんなさい、突然、声かけて……土田くんに聞きたいことがあって」  しばらくもじもじとしていた月島が意を決したように口を開いた。  大丈夫。彼女ならいない。  心の中でそう答えて、平静を装いながら「何?」と聞き返す。  自分では平静を装ったつもりが、緊張からか口の中が乾いていて「何」のたった二文字に声が上ずる。そんな様子を見ての警戒からか月島も次の言葉が出てこない。  まさしくお見合い状態で場の空気が固まった。何か喋らなきゃと思って「あの…」という声もタイミングが被る。お互いに譲り合った後、メドューサの呪いを解いたのは月島の方だった。月島は「……それ」とこちらの通学カバンを指差した後、自分のポケットからキーケースを取り出した。
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