5:ゴシップ

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『違うよ! ノンはそんな子じゃない!』  たまに流れるエレメンタルファンらしき声は悪意の渦に飲み込まれていく。きっと批判や中傷コメントを書いている多くは普段のエレメンタルなど知らないのだろう。彼女らがどのような思いで歌い、それをファンたちがどのような思いで受け取っているのか心を巡らせることもない。  ただ知っててか知らずか、さも自分たちは善人だ、自分たちが正義だと言った仮面を被って人の弱みに付け込む。人間誰しもが持っている一面だとは頭では理解しながらもやっぱり心は苦しくなる。 「アイドルって何だろうね?」  会話の中でポツリと月島がつぶやいた。不意をつく一言にうまく言葉が続かない。こちらの困った顔に気づき、月島が言葉を繋ぐ。 「あ、ごめんね。急に変なこと言って。今日のことでいろいろ考えちゃって。よくアイドルって恋愛禁止を強制されたり、すごく清廉なイメージをつけられたりするよね。もちろん商業的な意味でもイメージは大切だし、自分の推しが広い意味で『いい人』の方がいいのはわかるよ。でも、だからってその外身の部分のイメージが全てだと思ったり、それを押し付けるのはやっぱり違うと思うんだよね」  月島の言いたいことは何となくわかる。アイドルだって人間だ。周囲から求められるイメージはあるかもしれないが、そこと本人自身の姿には多少なりともズレは生じるだろう。それを認められるか認められないかだ。 「どこで聞いたか忘れたんだけど……」  月島の話を聞いていて思い出した話がある。 「人間は『べき』のフィルターを通った時に怒りを覚えるんだって。アイドルはこうある『べき』、全国ツアー中はプライベートの時間もおとなしくしている『べき』ってな」 「それって総合でやったアンガーマネジメントの話じゃない?」 「そうかもしれない。あれ、自分の中ではすごく落ちたんだ。確かに自分もいろんな『べき』に囚われてるなって」  月島に言われて思い出した。どこで聞いた話だろうと思っていたら、確か去年の総合学習の時間の一環でNPO法人か何かがやってきて行ったアンガーマネジメントの講演の一部だ。
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