№7

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№7

 裕と秀が燕の雛を拾って三週間が過ぎた。今日未明からの台風七号は各地に暴風雨をもたらし先ほど日本海に抜けて行ったとテレビでアナウンスしていた。   今朝の天気、これぞ台風一過と言える凄く穏やかなの青天である。 その早朝、裕と秀は、裕のお父さんが経営する開店前のお店の事務所に居た。 比較的高い天井で造られたその事務所の広さは、ほぼ十五坪である。  裕が水平に伸ばした右腕の先には割りばしで摘まんだ昆虫が見える。 5メートルほど離れたカウンタートップにはその昆虫を見つめるチビと秀が居た。  そう、教室に隣接する草むらから拾い上げたその雛があまりにも小さかったからなのか裕と秀はその雛をいつの間にかチビと呼んでいた。 「そら行け!チビ!」  理解できるはずもない秀の言葉だがチビの背中では檄となる。羽ばたいたチビは瞬く間に昆虫を口にした。だがその先の商品棚に止まったチビの(くちばし)にはもう昆虫は見当たらない、既に飲み込まれていたみたいだ。  チビのためにとひたすら公園で昆虫を捕獲している二人は、それよりも明らかに低学年であろう少年に声をかけられたことがあった。 「お兄ちゃん、なに捕ってるの?」 「燕の餌や、燕はな・・生きてる虫が好物なんや、僕らは燕の子供を育ててるんや、可愛いで・・」  いつの間にか秀は自分たちがまるで正義の、いやヒーローであるかのように自慢げに話している。それを訊いた少年の反応はというと・・ 「ふ~ん・・」 「観たかったらみせたるで、裕ちゃんのとこ行けへんか?」 秀は少年にあれが裕だと指さしていた。 「う~ん・・」 「な~んや、僕らそんなに怖ないで、心配せんでもエエて」 「やっぱり虫さんが可哀そうや!」
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