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 ちょっと違う、どころじゃなかった。清純無垢な白雪姫?あれは白雪姫というより、どっちかって言うと魔女の方だろう――。    なんてことを言える訳もなく一人悶々とする俺に、秀は遠慮なく彼女の話を垂れ流すようになった。俺が以前よりはるかに身を入れて耳を傾けるようになったから、なおさらだ。 「落ち着いてて大人っぽい子だったろ?」  大人っぽいどころか、年上疑惑すらあったな。 「彼女が二十歳になったら、二人だけで外で初飲みしたいんだよね」  残念ながら、それは初じゃないぞ。   「お酒自体は飲んだことあるらしくて、割と強い方だって言ってた」  知ってる。一人で飲んでいる時に声をかけてきたしつこい男を、しらっと潰して置き去りにしたのを見たことがある。 「もの静かで控えめなんだけど、芯が通ってる感じがいいんだよね」  もの静かは大変結構、そのまま余計なことを言わず黙っていてほしい。  秀の話を聞くたびに、彼女が男と寄り添っていた昔の姿が瞼の裏にチラチラする。秀は知ってるのか。知らないよなあ。知っていたら、もうすこし違う人物像が秀の中に結ばれているだろう。  言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが、下手に藪をつついて蛇を出してはかなわない。お互いに弱みを握っていると思いたいが、向こうは過去でこっちは現在進行形だ。どちらに分があるかは言うまでもない。俺は賢く口をつぐむことにした。別に浮気を目撃したわけでもないのだし。  しばらくの間はビクビクと過ごしていた俺だったが、秀はいつまで経っても何も聞かず、態度が変わることはついぞなかった。俺が彼女について何も言わなかったように、どうやら彼女の方も俺の諸事情について沈黙を守ってくれたようだった。  喉元に刺さった小さな棘のような不安が消えることはなかったが、大丈夫なのかもしれないと思い始める頃には、今度は別のことが気になりだした。 「お母さんが居ないんだって」  そんなことをぽつりと秀が漏らしたのはいつのことだったか。 「教授も海外出張が多いし、彼女がその間ずっと家に一人なのかと思うとさ……」  母親がいなくて父親は留守がち。俺はかつてバーの薄暗い照明の下で見た彼女の横顔を思い出して、なるほど、と納得する。いやしかし。 「子どもの頃はともかく、この歳になったらむしろうれしくね?家に親がいないのって」
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