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「そりゃ、貴文はそうだろうけど」  けど、の後に続く言葉はなく、秀はそのままぼんやりと物思いに沈んだ。  秀の家はやたら家族仲がいい。しかも秀は遅くに生まれた末っ子として可愛がられて育ち、反抗期もなかったタイプだ。そんな奴の目からすると、一人暮らしでもないのに広い家にポツンと取り残されるというのは、ひどく孤独で胸の痛むものに映るようだった。  それからというもの、秀は前より多くの時間を彼女に割くようになった。理系しかも実験系で、ただでさえ学会発表だの修士論文だのに忙しい中、デートの時ばかりではなく普段の通学時まで送迎したり、その献身ぶりは彼氏というより、もはや保護者めいて見えた。  「やり過ぎじゃねえの?過保護なパパじゃあるまいし」と苦言を呈した俺に、秀は困ったような顔で、「好きでやってるんだよ。我慢しがちな子だから、心配で」と答えた。  そのあとそっと呟かれた「守りたいんだ」という言葉には、恋の熱となにか決意のようなものがこめられていて、それ以上俺は何も言えなかった。  守りたい、ねえ。  果たして彼女の方はどう思っているんだろうか。  ただの顔見知りに過ぎない俺に何がわかると言われそうだが、あれは愛されたいとか、守られたいとか、そういう受動態を志向して生きるタイプじゃないような気がする。あの頃、人の数だけ思惑の行き交う夜を、ひとり鮮やかに泳いでいた彼女は。  俺の中の残像と秀の口から聞く彼女が上手く繋がらないまま、ついに今日という日がやってきたのだった。 「フラれた」 「――――はあ?」    突然呼び出されて、開口一番の秀のセリフに顎が落ちた。おいおい、ついこの間、初デート記念日とやらでウキウキはしゃいでいたばっかじゃないか。   「お前、なんかやらかしたの?浮気とか?」 「浮気なんかしてない」  じゃあ、なんだよ!?  事情聴取すべく、すでに軽くアルコールが入り、半分魂が抜けたようになっている秀を居酒屋に連行した。  秀曰く、先日の初デート記念アニバーサリーディナーで。 「結婚を前提として付き合ってほしいって言った」 「くそ重てえな!」  いきなりの爆弾発言に思わず本音が出る。いくらなんでも気が早すぎるだろ。 「もちろん彼女の卒業後の話だから、ゆっくり考えてって言ったんだけど」 「だけど?」 「それから一か月で、フラれた……」
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