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 彼女の側に立てば、結婚話まで持ち出されては『明るくて楽しいことだけ』というわけにいかなかったんだろう。その意味では、こいつは戦略を誤った。あまりにも早すぎたのだ。そりゃそうだ、向こうはようやく二十歳だぞ。いくら大人びていても、半年後には大学院を修了して社会人になる俺らとは、そもそもの立ち位置が違う。 「なあ、なんで今、突然プロポーズなんかした訳?」  最初に話を聞いた時から若干の疑問はあった。いくらのぼせていたにしても、なんで今なのか。 「結婚を前提にって言っただけで、別にプロポーズじゃないよ。プロポーズなら色々用意してさあ、場所とかシチュエーションとか……」 「夢見る乙女か。てか聞いてるのはそこじゃねえよ」 「……なんか最近、教授の視線が痛くてさ……」  それはまあ、一人娘が自分のテリトリーで男とうろうろしてたら、父親としては気になるだろうな、などと考えていると、再び爆弾が投下された。 「大体、紹介っていうかお見合いみたいなもんだったんだよ、最初は」 「………は?」  なんだそれ聞いてないぞ。 「言ってなかったっけ?最初、歳の近い、いいお嬢さんがいるから会ってみたら、て親に言われてさ。勘弁してよって思ったんだけど、こっちの付き合いもあるんだ、会いもしないで断るなって言うから、顔合わせだけのつもりで教授のとこ行った」 「ほおー……」  そんな裏事情があったとは。忘れていたけど、そういやこいつはお坊ちゃんなのだった。渋々行ったところが、思いがけず一目惚れしたわけだ。 「だからどうしても親の目は気になって、正しい男女交際を心がけてたんだけど、そろそろ我慢の限界だったっていうか。堂々とイチャイチャしたいし泊まりの旅行とかも誘いたいし、いっそもう結婚前提って言い切ったら全部許されるんじゃないかって思った。あとは単純に囲い込みたかった」 「あー……」 「正直、勝算しかなかった。そしたら……フラれた」  大変、相槌が打ちづらい。  手練手管とは言わないまでも、もうちょっと段階を踏むとか、探りを入れるとか、外堀を埋めるとか、やり方があっただろうよ。  いやほんとお前はバカというか、愚直というか……。  裏も計算もなく、真っ直ぐに正直で、心が綺麗すぎて、見ちゃいられない。  本気で好き、だったんだよな。
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