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「惚れた相手に、一生そばにいたいってちゃんと言える奴は、みっともなくなんかねえよ」
腹に溜まったものを吐き捨てるかのように言った俺に、秀は目を瞬いた。
「今のそれ、誰と比較してんの」
「……別に、誰ってわけでも」
「まさか、自分?」
「だから、別に」
「へえー、そう」
貴文がねえ、とにやにや笑うコイツはもう、俺の言うことに耳を傾ける気がない。
「そもそも今、彼女いんの?」
「……まあ、そんなようなのは、いるな」
彼女、ではないにせよ、特定の相手ならいる。それももはや風前の灯なのだが。曖昧な俺の口ぶりに、秀が意味深に笑う。なんだその顔は。
「好きだ、惚れてるってちゃんと言えばいいのに。軽そうに見せたがるけど、なんだかんだ言って一途なんだからさ、貴文は」
「は……?」
思わずまじまじと秀を見つめた。一途?俺が?何を根拠に。にやにや笑いの秀にイヤな予感が止まらない。俺の恋愛の話など聞かせたこともないというのに、こいつは何を知ってるっていうんだ。
「彼女、あ、元カノがさ、前に見たって言ってた。貴文の相手。なんか、派手に喧嘩してたんだって?」
――――息が止まった。
「お前に言った………?」
なにを。どこまで。ばくばくと拍動する心臓を感じながら、秀を凝視した。それをどう受け止めたのか、人の悪い笑顔のまま秀が言葉を続ける。
「ん、高校生の時、学校帰りに時々見かけてたらしいよ。貴文に会った時、俺の友達だってわかって驚いたって言ってた」
「……学校帰り?」
予期していなかったワードが出てきて、虚を突かれた。てっきりあのバーでのことを暴露されたものと身構えていたのだ。
――――秀が口にした高校の名前には覚えがある。あいつの働く店舗の近くの学校だった。
「その頃は制服に眼鏡だったし、貴文の方は気がつかなかったと思うけどって」
それはそうだ。年上だと思ってたくらいだからな!制服着てそのへんを歩いてるなんて、ノーマークだ。
「なんか、モデルみたいな美形が見かけるたびに喧嘩してるから、顔を覚えたらしい。貴文がそんなん珍しいし、俺も見たかった。美男美女のケンカップル」
「ああ……」
思わず、ため息のような声が漏れた。美男美女。その一言で、あの子が余計なことに触れずに秀に伝えたことがわかる。肩の力が抜けると同時に、この期に及んでそこを気にかける自分に嫌気がさす。
――――そんなだから、こんなことになっている。
そう自嘲しながら思い浮かべるのは、あいつのことだった。
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