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#5
複数ある中の選択肢のひとつ。初めはそうだったはずだ。お互いに。
ヤリたい盛りのお年頃のこと、あの男――岳斗の外見は好みだったしベッドでの相性は良かったから、割と頻度の高い相手だったのは否定しない。
回数が重なれば、自ずとお互いの周辺事情も知れてくる。会っていきなりホテルではなく、飲んだり遊んだりするようになったら尚更だ。
そんな気楽な関係だった頃、秀のことを話したことがあったかもしれない。かもしれないなんて曖昧な言い振りになるのは、酔い潰れてそのときの記憶を飛ばしているから。チートなレバーの持ち主である俺がブラックアウトするほど飲んだのは、後にも先にもそのとき限りだ。
とにかくめちゃくちゃな量を飲んだ。というか飲まされた。俺の長かった初恋が二度目の終焉を迎えた頃のことだ。後になってあいつは、いつにも増してテンションの低い俺の口を割るために、「狙って潰した」と白状した。
翌朝、今日の秀のように二日酔いでドロドロの俺に、「今フリーなんでしょ。俺と付き合ってよ」とニッカリ笑いながらあいつは言ったのだった。
それもいいかもしれないと、その時は思った。うまくいってもいかなくても、結果、前に進めるのなら。俺とて同じ場所に囚われ続けるのにいい加減惓んでいたのだ。
現実には、そんな俺の思惑を超えてあいつに振り回されることになる。
岳斗は暢気な男だ。はじめは秀に少し似ていると思ったものだが、為人を知るにつれ認識は改まった。
秀を例えるなら春の満月、それに対して岳斗は夏の台風だ。破天荒なエネルギーの渦に周囲を巻き込みながら、その中心で本人だけがのほほんとしている。
そして俺と奴は全てが違った。同じなのは年齢と性別くらいのものだ。スポーツ好きでコミュ力お化けのあいつ、インドアで人付き合いが嫌いな俺、パンチの効いた色遣いのコーディネートを絶妙なバランスで着こなすあいつ、モノトーンの服ばかり着ている俺、アパレルショップで店長を務めるあいつ、来年からは会計事務所で税理士として働き出す俺。
あいつは俺の、何が良くて付き合おうと思ったのか。
「顔がめっちゃ好み」
どうせそんなもんだろうよ。
数ある中の一人だった頃は、その落差を面白がることができた。だが一対一で向き合うようになった途端に衝突は増えた。
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