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岳斗はゲイであることも付き合ってる相手もいつも開けっぴろげだ。だから、家族だろうが友人だろうが徹底的にクローズしている俺を理解できないようだった。
「なあ、なにがそんなに気になんの?自意識カジョーなんじゃない?」
うるせえわ、人前でベタベタすんな、腰に手を回すな。分かっていてわざと仕掛けてくる態度がムカつくんだ。邪険にしたら、「最悪」と水を引っ掛けられてそのまま音信不通、それが最初の破局。
ああそうかよと以前の生活に戻っていくらも経たない頃、奴はまたひょっこりと俺の前に現れた。
「今フリーなんでしょ。俺と付き合ってよ」
どこかで聞いた、そんなセリフと共に。
頭がいかれてるんだ。そんなことを平気で繰り返すあいつも、それを受け入れる俺も。
周期的にひどい喧嘩をした。破局、復縁、破局、復縁、また破局。持って半年、早ければ三週間。揉める時のパターンはいつも同じだ。人前でも堂々といちゃつきたがる岳斗と、断固拒否する俺。路上で罵り合ったことも、胸ぐらを掴んだこともあった。最初のうちは、破局と復縁の合間にほかの男が挟まることもあったが、何周目かからはそれもなくなり、ただぶつかって離れてくっついて、をひたすら繰り返すようになった。学習能力のなさ、ここに極まれり。
怒って背中を向けるのが岳斗なら、へらへら笑いながら折れてくるのも岳斗だった。自覚はしている。俺は口では文句を言いながらも、どこかそれに甘えていた。
今回ばかりはそうはいかないだろう。いつものゆるんだ笑顔が消え、今まで見たこともないような冷たい表情をしていた。そんな顔もできるのかと、思わず呆けて見つめてしまったほどに。
「自分のこと、クールとか思っちゃってんの?ただのヘタレのくせに」
嘲笑いながら俺を睨みつける目からは、傷つけたい、という強い意志ばかりが伝わってきた。
「それとも未だにワンチャン狙ってるわけ?」
――――そもそもは収納の話をしていたはずだった。
岳斗の買い物に付き合った帰り、ふらりと入った喫茶店で休憩中のこと、岳斗は限定品のスニーカーを入手して満面の笑みを浮かべていた。
「マジでサイズ残ってて良かったわ」
職業柄もあるが、実用品というよりはコレクションなんだろう。岳斗はよくスニーカーを買っている。
「何足くらい持ってんの、今」
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