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「数えたことない。十足以上はカタい」 「玄関埋め尽くしてるもんな」 「それな」  収納の広い家に住みてえ、と唸る。着道楽でもある岳斗のアパートは、クローゼットもパンパンだ。ちなみに俺は気に入ったものを長く使いたい派で、服も靴も頑丈で修理の利くアウトドアものを選ぶことが多い。そういうものは得てして高価なので、あまり数は持っていない。 「春から、フミは住むとこどうすんの?」  今は実家住まいで、就職先は通勤できない距離ではないが少々遠い。多少の貯金はあるし、このタイミングで独立するつもりだった。 「じゃあ、一緒に住もうよ」  岳斗がその一言を口にするために必要とした勇気を、小さく見積もっているつもりはない。たとえそれが、あさっての方向を見ながら、何気ない風を装ったセリフだったとしても。  そして岳斗の提案は単なるルームシェアではなく、俺にもある種の覚悟を迫っていた。二人の間柄を一過性のものに終わらせないということ、そのために、俺が頑なに二人だけの世界に閉じてきた関係を、目に見える形で周囲――例えば俺の家族――にひらく覚悟だ。  それじゃあ、まるで―――― 「か、考えとく………」  結婚でもあるまいし、と思ったら柄にもなく動揺して舌がもつれた。顔が熱い。そんな俺の様子を横目で見て、ふは、と岳斗が笑い声を漏らした時、俺のスマートフォンが震えた。振動を続けるそれは、メッセージではなく通話の着信のようだった。画面に表示された名前は、「………秀?」そう呟いた途端、岳斗の顔から表情が抜け落ちた。  秀から電話がかかってくることなど滅多にない。何か緊急事態なのかもしれない。  出るのかよ、と小さく呟く声を聞き流して通話ボタンを押した。 「あ、俺。何?」 「たかふみ~~今日、ヒマ?」  やけに明るい秀の声がスマートフォンから響く。 「別に暇じゃ……お前、まさか酔ってんの?こんな時間から?」 「や、ちょっとだけね。でも、一人飲みは寂しいからさあ、貴文がこっち来ないかと思って」  ケタケタと笑いながらいう秀は、どうも様子がおかしい。過ぎるほどに真面目な男だから、昼下がりから強くもない酒を飲みたくなるほどの何かがあったんだろう。 「お前、今どこにいんの?」 「いつものとこ。北口の近くの………」
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