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俺が自分のセクシュアリティに薄々気づき出したのは、中学に入ってからのことだ。思春期真っ盛りの男どもが嬉々として話す猥談にちっとも気が乗らず、巨乳のグラビアアイドルにも興味を持てなかった。俺の性的な関心はそこにはなかった。
秀は秀でその手の話題には一歩引き気味で、二人してすんと澄ましていると、これだからツラの出来のいい奴らはと悪友たちからはブーイングを飛ばされたものだ。
秀が赤裸々なエロトークに乗らない理由は生来の真面目さゆえのことだと思いつつも、もしかしたら、と言う期待を俺は捨てきれずにいた。秀に対して特別な感情を抱いていることをすでに自覚していたから、秀も同類であって欲しいと言う、まあ手前勝手な願望だ。そしてそんな淡い期待は、高二の夏、秀の初カノの登場とともに終わりを告げることとなるのだが。
秀の彼女に名乗りを上げたのは、同じ駅を利用する女子校の同学年の子だった。顔も名前も、もう忘れた。たぶん失恋のショックを和らげるために、無意識のうちに記憶から消去したのだと思う。
別にいいんだ。どうせカミングアウトする気などさらさらなかった。俺は秀の一番仲のいい友人、それでいい。秀が誰と付き合おうと別れようと、関係ない、関係ない。彼女ができたと聞けば「よかったじゃん」、別れたと聞けば「残念だったな」。あとはその手の話題からはできるだけ距離を置いた。
秀の彼女の扱いはいつもあっさりしたものだった。リクエストされたことはよほど無理じゃない限り受け入れるが、秀の側からは束縛も要求もほとんどしたことがないんじゃないかと思う。あまりの淡白さに業を煮やした彼女から別れを突きつけられることもしばしばで、俺にそんな報告をする度に「貴文といるのが、いちばん楽でいい」と眉を下げて言う鈍感ぶりには、つける薬もなかった。
そんなこんなで、諦めたつもりがどこか未練を引きずっていた俺に、ついに引導を渡されたのは大学三年の時だ。
俺と秀は同じ大学の別の学部に進学した。理工学部に進学した奴は、ほぼ男子校な環境を嘆きつつも、バイト先やらサークルやらで相変わらず女の子に寄り切られる形でモテていた。
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