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 俺とて望みの薄い片思いにいついつまでも操を立てていたわけではなく、特に大学生になって以降はそっちのコミュニティでそれなりに遊んではいた。まあ、どちらかというと刹那的な性欲の発散に偏っていたことは否定しないが、そこには何憚ることのなくありのままの自分で過ごせる居場所があって、そのおかげか気持ちの整理をつけるのにそう時間はかからなかった。どのみちもうそれは、燃え尽きる寸前の熾火のようなものだったのだ。  だから奴が愛しの彼女に一目惚れしジタバタ足掻いていた頃、俺にはそれを生ぬるく見守るだけの心の余裕があった。あの日までは。
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