人参果(にんじんか)

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ジャングルの木の葉の隙間から月明かりがさしてくる。シンは、リウ(六)の体を胸に抱いて歩き始めた。リウ(六)はその後ろをついていった。 シンの体は細くてすらりとしていた。背中だけを見たら少女のようだ。そんなシンに抱きかかえられたリウ(六)の体はとても小さくてみすぼらしかった。まるでゴミみたいだと、冷めた目で使い魔になったリウ(六)は見ている。同時に、そんな体を抱きかかえてくれている真の姿を尊く感じた。 大切にされている。 そう思えた。 突然、鳥が鋭く鳴いた。でも、声は遠い。ここには最強の結界を張ってあるから、獣の類は入ってこないとシンは言った。 それを聞いてリウ(六)はほっとした。知らない生き物の気配は薄気味が悪かったのだ。シンは笑って言った。 「ここに、お前たちを怖がらせるものなんていれないよ。小さくても、僕たちの楽園なんだから」 楽園か。確かにそうかもしれない。こわいものは何もなくて、シンと、仲間がいてくれる。 「さあ、ついたよ。これが、僕たちの守り神だよ」 シンは、見上げるような大木の前で足を止めた。つややかな葉が月光を反射して青白く輝いている。そして、太い幹には無数の果実が実っていた。 「よく見てごらん」 シンに促されて、果実の一つ一つを見つめると、それは小さな赤ん坊の姿をしていた。口元にうっすらと笑みを浮かべて、目を閉じて眠っている。 果実と幹はへその緒のような果柄でつながっている。果柄はゆらゆらとゆれて、まるで赤子をあやしているようだった。くつくつとのどを鳴らして笑う声さえ聞こえてくる。無数の赤ん坊が、大きな木に養われていた。
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