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少年はおにぎりを半分に割った。
「じゃあ、半分こしよう」
そう言って差し出された半分のおにぎりがまぶしかった。子供はおにぎりを受け取った。
「ゆっくりかんで食べるんだよ」
口に入れた瞬間唾液があふれてすぐにでも飲み込みたかった。でも、よくかめと言われたからかみ続けた。やがて、ご飯の甘さを感じた時、子どもの目から涙があふれた。
「おいしいかい」
子どもはうなずいた。
「僕と一緒においで。そうしたら、いつだって食べさせてあげる」
「ほんとに?」
「ほんとうだよ。来るかい?」
「・・・行く」
「分かった。」
「ほんとに?」
「ほんとうだよ。来るかい?」
「・・・行く」
「分かった。じゃあ、その前にしなきゃいけないことがある」
少年は立ち上がった。
「君んちまで連れて行って」
子供の心は一瞬にして恐怖に包まれた。知らない人を家まで連れていったら、どんなひどい目に遭わされるか分からない。その恐怖が伝わったのだろう。少年は笑って言った。
「大丈夫。僕に任せて。さっきおにぎり食べただろ。あれはね、勇気のわくお薬なんだよ」
そうなの? 不思議と恐怖が薄まった気がする。子供は少年を案内して、アパートのドアの前に立った。
「開けて」
少年は言った。子供は首を横に振った。やっぱり怖い。
「僕はね、完全に閉じられているものは開けられないんだ。大丈夫。君は開けてくれるだけでいい。僕を信じて」
子供は恐る恐るドアを開けた。
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