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虎が子供に聞いた。口から血を滴らせている猛獣の姿は恐ろしかった。しかし虎の黒い瞳は少年の同じ、優しい光をたたえていた。子供の心に、今まで味わったことのない感情が湧いてきた。
怒りだった。子供は女に言った。
「助けて、じゃないでしょ。ごめんなさいだよね」
「ごめんなさい!ごめんなさい!1 ゆるしてください」
必死に訴える女に、子供は女の口真似をして優しい声で言った。
「だーめ」
虎は女に躍りかかり、喉笛をかみちぎった。女も動かなくなった。虎は女の腹を破り、少年の姿に戻ると女の体から心臓を取り出した。
「お食べ。おいしい桃だよ」
「桃って何? 」
「桃を知らないのか。じゃ、いちごは? メロンは? ぶどうは?」
「知らない」
「・・・じゃあ、お前が今まで食べた甘くてうまい食べ物は何だ?」
甘くてうまいもの・・・そんなものあったっけ。子供は辛いばかりの記憶をたどった。
一つだけ、あった。誰が食べさせてくれたのかも思い出せないけど。
「プリン」
「そうか。じゃあ、これはプリンだよ」
少年がそう言うと、血にまみれた心臓は見る間に形を変えて、子供がいつの日か食べたとおりのプリンになった。
子供はプリンを食べた。
「いい子だ。お前は今日から僕の使い魔だ。名まえは・・・『リウ』だ」
「リウ」
「そうだ。いい子だ」
少年は、にっこりと笑った。
「お兄ちゃんの事、なんて呼んだらいい?」
「僕の事?・・・シン、でいいよ」
「うん、分かった。」
リウは、笑った。
「そう。僕はシン。すべての子供を守る者だよ」
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