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いつの間にか少女は足音もさせずに飯島のそばに立っていた。飯島の右半身がゾクゾクと震えた。白く滑らかな肌にこびりついた黒い血痕が、迷彩模様のようになっている。ああ、これが夢枕に立ったら死ぬまで俺は沈黙するよ。
「はい。人食い虎が出たって分かりました」
「それが日ごろは人間の姿をしているのも分かったか?」
「はい分かりました」
「人虎は天界と人間界の両方を行き来しているのは分かったか?」
「いえ、それは今初めて聞きました」
「ふん。なかなかいいな。この状況で受け答えができて、分からなければちゃんと分からないと言える。気に入ったぞ」
え? 気に入られた・・・? それはいいことなのか悪いことなのか?
「ははは。では非科学捜査研究所正式採用と言うことでいいですな」
本部長が涼しい顔をして言った。
「ちょ、ちょっと待ってください。不採用で交番に戻れるんなら気に入られないようにしますけど」
「つまらぬ男だったら喰う。お前はあまり肉づきはよくないが、若いから臭みもなくてうまそうだ」
少女は血まみれの顔を飯島に寄せて、額を額に押し付けてきた。飯島の視界いっぱいに血まみれで迷彩模様になっている肌と鋭い光を放つ二つの目が広がった。
マジで喰われる。飯島は腰が抜けたようになった。
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