現場

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現場

通報を受けて現場に駆け付けた警察官たちは息をのんだ。 「・・・すさまじいな」 現場には血と、臓物がぶちまけられていた。あちこちに飛び散った肉片と、もとは人間だった二つのかたまり。手足は辛うじてついていたが、内臓がつまっていたはずの腹部は空っぽだった。 「まるで食われたみたいじゃないか」 飯島巡査は、研修で見たクマの被害動画を思い出した。F市はそれなりに人口のある都市なのだが、背後に山脈があり、クマが生息している。いつ人間の生活領域に降りてきても不思議ではなかった。だから、クマが町に侵入してきたときの対処法を研修したわけだ。 「勝てる気がしねえ・・・・」 それが飯島の結論だった。早く刑事になって、人だけを扱うようになりたい。巡査の仕事は酔っ払いの保護からクマ退治まで、幅が広すぎる。 捜査は一課の刑事が行うから飯島の仕事は現場の入り口に立って警備をしているだけだ。それでもチラチラと目に入る遺体の様子が尋常でないことは分かる。 まさかクマなのか? 現場には人間の死臭と血のにおいの他に、得体のしれない獣の臭いもまじっていた。 いやしかし、こんな唐突にクマがアパートに侵入して来るなんてありえない。第一アパートの窓も玄関も閉じられていた。 『戸を開ける猫は賢い猫、戸を閉める猫は化け猫』 これは江戸時代から伝わる化け猫の見分け方だ。婆ちゃん子だった飯島は、田舎に帰るたびにそんな話を聞かされていた。なんか、この現場、普通じゃない。飯島はぶるっと震えた。 何なんだこの現場は。
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