鬼子母

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園長は鬼子母神の真言「オン ドドマリ ギャキテイ ソワカ」の梵字が書かれたお札を取り寄せては人形に縫い込んでいった。完全な園長の趣味で作られたものもあれば、鬼子母のリクエストに沿ったものもある。園長室に置かれたガラスケースには数十体もの人形が大切に保管されていた。そのほとんどは血や泥にまみれて背中が裂けている。 虎との戦いの痕跡だ。 まっさらなものはほんのわずかだった。ほとんどは布製の素朴なものだったが、一体だけ、顔が陶器でできているものがあった。それは飯島が思い描く「神仏」に近い姿をしていた。柔和な表情で片手で赤子を抱きもう片方の手には果実を握っている。 「あれは何の果実ですか?」 「あれは、ザクロだ。あれは園長が人形師とともに半年かけて作ってくれた特別な人形だ。 シンダーラと最後の決着をつけるときは、あの姿と決めている。」 「決着・・・ですか」 親子なのに、悲しい響きだな、と飯島は思った。しかしこの母子には飯島などが思いも及ばない長い年月を刻んだ軋轢があるのだろう。気を取り直して森本捜査一課長に質問した。
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