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吉沢が指定された商店街に向かうと、シンが待っていた。少年の姿をしたシンは、きれいな顔に人懐こそうな笑顔を浮かべている。これが虎に変化をするとはにわかに信じがたいが、吉沢はその様子をまざまざと思いだしてぞっとした。
出会ったのは5歳の時。あの頃と全く変わらない。と言うことは、またあのシーンが再現されるのか。優しそうなお兄さんだと思ったシンは、泥酔していた母の姿を見た途端に巨大な虎に変じた。幼かった吉沢は夢中で虎と母の間に割って入ったのだ。
あの行為は、母を愛していたからなのか。分からない。こわいものを見たくない、臆病な自分の性質によるもののような気がする。
今日はどうなるんだろう。何も心配するなと言ってもらったけど。
シンはリュックサックを背負っている。リュックサックには五体のマスコットがぶら下がっていた。男の子が四体、女の子が一体。女の子のマスコットが笑いかけてきた気がして、吉沢はぞっとした。
虎を導いて来ればいいって言われたけど、本当に大丈夫なんだろうか。
不安な気持ちを押し隠して、シンと吉沢は母親の住むアパートについた。
「開けて?」
「え・・・でも鍵がかかってると思います」
「だらしない女だからね。鍵なんかかけてないよ。でも僕は、完全に閉じてるものはあけられないから」
吉沢は、バカにされたような複雑な気持ちになりながら、ドアを開けた。鍵はかかってなかった。
ドアの向こうは薄暗かった。カーテンを閉め切っているのだろう。
シンダーラは部屋に一歩踏み込むと、虎に変じた。リュックについていたマスコットたちも人の姿となり、虎の周りを取り囲んだ。
喰われる! 吉沢は硬直した。恐怖で体が動かなかった。
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