琥珀

2/6
前へ
/61ページ
次へ
「・・・園長、あれを持ってきてくれるか」 「はい。」 園長は、自分の車いすの後ろに立っている保育士に合図をした。どうやらあの保育士、人間ではないな、と飯島は思った。たぶん、鬼子母と同じ仕組みで動く人形だ。目に意思がない。人件費削減ってやつだろうか。 保育士は園長室の奥にある金庫をあけて、砂金を入れるような大きな革袋と、紫色の巾着袋を出してきた。巾着袋の中には、それぞれ油紙で包まれた琥珀が6粒入っていた。 鬼子母はそれをテーブルの上に並べた。 「使い魔たちの琥珀だ。子どもたちは人間から使い魔に変じるときに必ず涙を流す。それが凝り固まってできたものだ。右端から、イー(ー)、アール(二)、サン(三)、スー(四ー)ウー(五)リウ(六)のものだ。このうち、さっき逃げたのはサン(三)とスー(四)。琥珀だけは残っておる。」 サン(三)、スー(四)、リウ(六)の琥珀が振動している。振動はリウ(六)のものが一番激しく、スー(四)はかすかだ。 「振動しているのは、琥珀が使い魔の魂と連動しているからだ。きっと久しぶりにシンダーラと会って興奮しているのだろうな。使い魔が自分の意思を失うにつれて、硬化していく。」 「その革袋には、7000個の琥珀が入っているのですか?」 「いや。覗いてみろ」 飯島が恐る恐るのぞいてみると、そこにはビーズのように細かい飴色の砂が入っていた。 「わしはシンダーラの足取りを追い続けてきた。やつが現場に残すのは使い魔の琥珀だけだ。わしはそれを集めてきた。するとな、おかしなことが起きるのだよ」 「おかしなこと?」 「琥珀が七つ集まると、砕けるのだ。この皮袋に入っているのは、砕けて砂になってしまった琥珀だ。理由は分からん。だが1110回琥珀が砕けるのをわしは見てきた。もしもああと一つ琥珀が加われば、1111回目になる。理由はない。理由はないが、嫌な予感がする。1111回目は、必ず防がねばならん」
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加