15人が本棚に入れています
本棚に追加
飯島は自分のアパートから着替えや身の回りのものを持ってくるため、いったん帰宅することにした。すっかり日が暮れている。こども園の門の前ではまだ奈津美先生が園児たちのお見送りをしていた。働く親たちのシフトなどに合わせて延長保育をするために、お見送りの時間が遅くなっているのだ。
先生も子供も親も大変だな、と飯島は思う。これからバタバタとご飯を作って子供をお風呂に入れたら一日が終わってしまう。先生たちだって後片付けはこれからだ。
俺はどんな家庭を築くんだろうな。家族でゆっくり夕食を食べて、休日は子供とキャッチボールして、、、警察官って職業では、そんな日常は難しいのかな。
まあそもそも俺には彼女もいないし。考えても仕方がないか。
ふと、門の上に目をやると、カーリーがあぐらをかいたままゆらゆらと空中で揺れていた。こども園のエプロンをつけて、三叉戟を小脇に挟み、鋭いまなざしで外を見ている。
そうか、ああやって虎が侵入してこないか見張っているんだな。俺には『縁』ができてしまってああいったものがはっきり見えるけど、園児も親も、気づいてはいないのだろう。何事も起きないといいけど。
最後のお見送りが終わったようだ。奈津美先生がうーんと背伸びをした。そのタイミングで飯島は話しかけた。
「遅くまで大変ですね」
「キャッ」
奈津美先生は全く気を抜いていたので、思わず悲鳴を上げた。
かわいい、と飯島は思った。
化粧っけはなく、ちょっと明るい髪色に緩いパーマをかけている。くりっとした瞳が表情豊かだ。
最初のコメントを投稿しよう!