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人参果(にんじんか)
シンの毛皮につかまっていると、背中を空気が矢のように通り過ぎていく。ものすごいスピードでシンが疾走しているのがわかる。でもつかまっている毛皮は暖かくて、眠ってしまいそうになるくらいに快適だった。
「ついたよ」
シンが言った。いつの間にかシンは少年の姿に戻っていた。周りは熱帯雨林だった。背の高い木と、大きな葉っぱのつる植物や草が生えていて、大きなトカゲが木の幹をすばしこく登って行った。
「ここは?」
リウ(六)は見たことのない景色におびえながらシンを見上げると、シンは優しく微笑んで言った。
「僕の地上でのふるさとさ。天界から落ちた僕はここで虎の腹に宿った。でも、虎は僕が人虎だと気づいてここに捨てたんだよ。僕は二回母親に捨てられた子供さ。」
シンの悲しそうな横顔に、リウ(六)は胸が締め付けられそうになった。
「シン、僕はシンの友達だよ」
「ありがとう」
シンはにっこりと笑った。
うーーむ、と苦しそうなうめき声が聞こえた。サン(三)だった。さっきの戦いで両手首を恐ろしい女から切り落とされていた。シンが口にくわえてここまで運んだのだ。
「スー(四)。おミカンをあげてくれるかい?」
シンが言うと、スー(四)はうなずいた。
「サン(三)、おミカンどうぞ」
スー(四)はミカンを切り落とされたサン(三)の傷口に押し当てた。ミカンはサン(三)の傷口を癒し、サン(三)の両手は復活した。
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