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「リウ(六)、リウ・・・」
耳元でシンがささやいた。リウが体を起こすと、シンがそっと唇に人差し指をあてていた。
「サン(三)と酢0(四)は寝てるから、起こさないようにね」
リウ(六)うなずいて、ハンモックからぴょんと飛び降りた。使い魔になったリウ(六)の体は軽かった。ふわりと地面に着地すると、頭の上にはまん丸な月が出ていて、熱帯の木々がシルエットのように浮かび上がっていた。
「びっくりしただろ。インドだよ。ここは人間界での、僕のふるさとなんだ」
「ぼく、こんな木も動物も、初めて見たよ」
リウ(六)は、木々を飛びまわる夜行性のサルの群れを見ながら言った。
「そうだろうね。おまえの故郷の日本からは随分と遠いところにあるから。でも僕たちはもう霊体だから、縁さえあればどこにでも行けるんだよ。窮屈な肉体とはおさらばしたからね」
シンは、木の下に生い茂っていたつる植物の茂みをかき分けた。リウ(六)は息をのんだ。茂みの中に、リウ(六)がいた。
リウ(六)の肉体があった。
「ぼ、ぼく、死んじゃったの?」
「ちがうよ。おまえは抜け出したんだ。窮屈でか弱い肉体を捨てて、僕の仲間になったんだよ」
月明かりの下で目を閉じているリウ(六)の体は、確かに貧弱だった。痩せぽっちで青白く、古いかさぶたや、まだ癒えてない傷もそのままで、唇はカサカサに乾いていた。
『お水をください』
何度あの唇で唱えただろう。苦しくて、みじめで、悲しくて。
そんな感情が、一切消え失せていた。リウ(六)は不思議な気持ちで自分だった体を見下ろしていた。
シンはリウ(六)だった小さな体を胸に抱いて立ちあがった。
「行こうか」
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